連載

宮原光恵 北海道・朱鞠内で暮らす 第8回 息子が農業をやることになりました!!

久しぶりにペンをとります。
前回、この地域で後継者が決まっていないのは我が家だけ・・・?!と書きましたが、実は4月から息子が後継者として帰ってきました。Mt.ピッシリ森の国(株)として会社化し、従業員の募集中ですがなかなか新しい人材は見つからない。このままでは私たちが保たないと家族で相談し、この春から息子が一緒に農業をやることになりました。会社勤めを2年、本人はもう数年は勤めていたかったと言っています。

だからこそ、有機JAS認証を申請
先日、かねてから申請していた、有機JAS取得の申請書が受理されました。東京オリンピックに向けて有機農産物が足りない、と、政府からの呼びかけを何度も目にしていたので、我が家も有機JASを取得すべく昨年から準備を始めてきました。せっかく20年以上もちゃんと有機栽培をしてきているのに、表示で選んでもらえないのは不本意なので、せめて選んでもらえるよう努力をすべきなんじゃないかという動きです。そんなこんなで、今年から我が家も第2ステージ突入です。これまでの20数年様々なことがありましたが、何とか現在まで農業を続けてきました。ここ朱鞠内で農業をすること、ここ朱鞠内で生きていられることを心から感謝し、次のステージも頑張っていきたいと思っています。

日本の農産物輸出の実態はいかに・・・
北海道・朱鞠内,宮原,自然塾
シンガポールの象徴マーライオンとマリーナベイサンズ

北海道・朱鞠内,宮原,自然塾
シンガポールの摩天楼を背景に繰り広げられる噴水と
光と音楽のショーは圧巻

北海道・朱鞠内,宮原,自然塾
見たことがない野菜に愕然。ズラッと並ぶどれも知らない・・・。
バタム島のスーパーで

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マレーシアのオーガニックファームを視察。
熱帯なので標高の高いところでしか野菜づくりができない

北海道・朱鞠内,宮原,自然塾
伝統的なマレーシア料理。
自家菜園のオーガニック野菜を使ったレストランで

北海道・朱鞠内,宮原,自然塾
クアラルンプールのスーパーの日本産野菜の専用売り場。
品数は思いのほか豊富だ

さて、今回はちょっと趣向を変えて、つい先日視察してきた東南アジアの様子について書いてみようと思います。
私自身は、南の気候には苦手意識がありました。なにせ、真夏でも25℃以上になることが稀な北海道の道東標茶町の出身で、海外といえば気持ちはつい北に向かってしまうんですね。若い頃はアラスカ通いばかりでした。夫は逆に若い頃は南ばっかりで、そもそも九州長崎県の出身。インドネシアに半年、シンガポールでは2年ほど商社に勤めていたこともあるので、インドやマレーシア、ミクロネシアの島々を含め、東南アジアは彼の若かりし頃は馴染みの地でした。
そんな青春の時から約35〜40年が経過し、今どうなっているのか見てみたい、ということと、これら諸国の若者たちが最近我が家を訪れていて、東南アジアの今を知る必要を感じていたことなどがあり、一昨年夫と息子が一度視察に行っていますが、今回はわたしも知る必要がありました。

中でも最大の目的は、日本の農産物輸出の実態を確認、把握することでした。日本は、多くの作物を輸入に頼っていますね。世界中の作物がほぼ毎日のように食卓に上がり、違和感なく食べているご家庭が多くなっていると思います。何せ日本国内で消費される食糧の、大雑把にいえば3分の2は輸入食材なのですから。そんな中、日本の農産物を輸出しようという働きは比較的最近です。日本はそもそも貨幣価値が高く、人件費などもかさみ高額になってしまうので海外では売れないだろう、というのが長く日本の農業界の常識だった気がします。

近年中国が台頭し、アジアの富裕層が購買力を持ち、元来ハイクオリティーな日本の農産物は世界でも売れる!と一部の資金力、組織力のある企業や組合などが農産物輸出に乗り出して、そろそろ10年くらい経ったでしょうか。2010年、当時の民主党政権の鳩山首相に首相官邸に招かれ議論の中で元首相をはじめ参加者の皆さんが日本の農産物は売れる、というお話をされていたことを思い出します。
  鳩山首相が音頭をとって開かれていた首相との意見交換の場、「リアル鳩カフェ」の第2回に宮原さんは出席。テーマは「食と農」で、全国から10人の若者が招待された。

市場はオーガニックに移行しつつあるのか?!
日本の農産物が売れるのは、品質がいいから・・・? 味が美味しいから・・・? 見てくれがきれいだから・・・? 本当のところはどうなんだろう。それをこの目で確かめようと、シンガポール、インドネシア、マレーシアのスーパーを片っ端から見て回りました。
主に生鮮野菜や果物がどこの国から、どんな栽培で、いくらくらいで、どんなパッケージで売られているのか。食文化の違いや住んでいる地域、住民の特徴なども踏まえ、可能な限り歩き回りました。

赤道直下かその近隣の街ですから、1年中真夏の気候。雨期と乾期があるくらいで、1年を通してほとんど気温は変わらないのだそう。実に当たり前の話で、子どもの頃に学校でも習いますが、実際に現地でそれを体験してみると様々な違いや工夫、暮らしぶりが見えてきます。

農家の立場、農産物を売るという立場から見れば、生鮮食品である生野菜は鮮度が命。それを海外で、しかも常夏の国で、どう売る?!膨大な課題が頭をかすめます。収穫から消費者の皆様の食卓まで一体何日かかるのか。検疫はどうするのか。小分けはいつ誰がやるのか。表示はどうか。お店までの中間はどんな業者を介することになるのか。輸送手段や価格は?
で、そもそも本当に売れるのか?


街に若さと勢い。世界の"今"を実感
全体を通して感じたことは、予想以上に物価が高かったということ。確かにまだ日本の方が高いのですが、それでも思った以上に肉薄してきている気がしました。場所によっては日本とあまり変わらなかったり、かえって高いくらいのところもありました。TPPが発効されるまでカウントダウンとなってしまった現在、東南アジア諸国は日本とあまり変わらない場所になっていくのも時間の問題で、5年か10年かかるだろうか、と思わされました。そして、街を歩いていて痛切に感じるのは若さでした。どこを歩いていても街に勢いを感じます。このエネルギーであと数年、あっという間に日本は追い越されてしまうのではないかと危機感すら感じます。

そして、スーパーでの食材。
思った以上にオーガニックの商品が多い。売り場面積、種類も多く、世界各地から店頭に様々な野菜や果物が並んでいます。価格は慣行栽培よりはるかに高くて2倍以上していましたが、それでも確実にそれらの購買層があるのでしょう。売り場は十分な面積でした。
シンガポールでは、世界中から食材が入っていて高額で販売されていますが、そうした中で日本産というだけで本当に人気があるのでしょうか。これからも高くても売れるのでしょうか?オーガニックの売り場が広い面積で販売されている様子を見ていると、今後も日本からの慣行栽培物でも通用するのか?また、日本国内ではオーガニック野菜が足りないと言われているのに、実際には日本産のオーガニック野菜が海外でも販売されています。日本の農家は誰のために生産しているのか。高ければどこで売ってもいいのか?国として日本人としてそれはどうなんだろうか?様々な思いが湧いてきます。








(2018年4月11日)




PROFILE
宮原 光恵(みやはら・みつえ)
昭和37年生まれ。
北海道川上郡標茶町出身。
学生時代写真部に所属。
写真スタジオのアシスタントを経てフリーランスに。
日本人女性唯一の大型野生動物の写真家としてアラスカの自然と野生動物をライフワークに取材を続けていた際、現在の夫と出会い、結婚。
冬季のアラスカネイティブ社会で生活した経験を持つ。
狩猟採集の生活をベースに自然と共に暮らす生き方の実践のため現在の朱鞠内に1997年新規就農。
現在耕作面積約60ha、そのうち約3haでEMを使った無農薬無化学肥料栽培で数十種類の野菜の栽培も行っている。
Mt.ピッシリ森の国 https://www.pissiri.com/
Facebook:https://www.facebook.com/Mt.pissirimorinokuni
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