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タイ国の洪水後の衛生対策に国策として活用されたEM

タイ国におけるEMの歴史的背景

これまで、このシリーズにおいて、EM大国であるタイ国でのEM普及状況についてたびたび紹介してきました。タイ国では年間1000トン内外のEMが製造されていますが、その量は日本の10倍、その大半が農業や農村の生活圏と、ごみ処理や水質浄化などの環境分野で活用されています。

タイ国にEMが導入されたのが1986年10月で、今年で26年目となります。当初は自然農法の普及を目指し、また、同国の王室がリードする有機農業の推進のために始まりました。世界救世教タイ国本部の故湧上和夫会長が、当時私が勤務していた琉球大学まで訪ねて来られ、すでに成果が明らかとなっていたEMの自然農法への応用を確認し、タイ国での普及を希望されたのです。

重粘質土壌で作物を十分に育てることができなかったバンコクのランシットにあるモデル農園でEMの試験が始まりました。数か月で驚くべき成果が現れ、1年後には誰でもその効果を認めるようになり、農業省を始め、多くの公的機関もEMを好意的に受け入れてくれました。

いずれも、湧上さんのタイ国のためにお役に立ちたいという信念によるもので、多くの協力者が得られ、農業が不可能とされた荒地に理想的なEM自然農法のモデル農場を完成させたのです。サラブリにある自然農法アジア人材育成センターがその農場の現在の姿ですが、サラブリ農場を訪れる人々は、何の疑念も抱くこともなく、EMの力を確信し、研修を受け、農業や環境にEMを積極的に活用するようになりました。

このセンターで研修を受けた人々は10万人を超え、またアジア地域を中心に研修を受けた、タイ国以外の人々も数千人に達しています。アジア全域にEMが広がったのも、このセンターのおかげであり、現在もなお進化した自然農法のモデル農場として多くの人々の研修を引き受け、同時にアジア各国の自然農法のリーダー養成機関として重要な役割を果たしています。

このモデルケースが、タイ国の各地に波及し、個人のボランティアによる普及モデル農園から、陸軍やキングプロジェクトによる貧困農家対策や、住宅公社を中心とする社会開発省による、環境や生活分野での応用に至るまで、積極的にEMの普及活動が進められています。

また、タイ国の農村部の学校は例外なく小さな農場を持っており、農業の教育を行っていますが、1万校あまりの学校でEMが活用されています。学校で生産された無農薬のEM野菜は市場で販売される例もあり、地域によっては、学校の重要な収入源ともなっています。このような背景から、農村部では、EMを知らない人はいないというくらいに一般化していますが、バンコクをはじめとする都市部においては、一般の人々がEMを使う機会が少なく、社会開発省を中心にスラムの衛生対策や生ごみのリサイクル、汚水の浄化などなどに使われる程度で、環境省も横目で見ているというありさまでした。

とは言っても、本シリーズですでに紹介したように、住宅公社による3億トンあまりのダムの浄化や、陸軍による麻薬対策や、南タイのイスラムのテロ対策は、国連でも高く評価されています。すなわち、EMを活用し、豊かな農業が営めるようになり、貧困からの脱出が実現できるようになったのです。そのため陸軍や社会開発省は独自にEMトレーニングセンターをつくり、各々年間5000人以上の研修を行っており、タイ国でEMの研修を受けた人は100万人を突破しています。

国家全体でEMを活用


バンコク郊外の水没地域の状況
すでに述べたようないきさつから、EMの実績や公的な活用事例から、100年に1度と言われる今回の大洪水に伴う衛生問題の解決に、EMが活用されることになったのです。例によって、EMを知らない大学教授や環境の専門家と称している人々から、生態系がおかしくなるとか効果に疑問という愚問や反対の声が上がり、海外のメディアも数社が私にコメントを求めてきました。

EMの安全性はもとより、生態系の改善効果は、すでに常識化しており、2010年のCOP10でも生物多様性を守る技術として高く評価されています。当初は、マスコミも声高に叫ぶ専門家の意見も大きく取り上げていましたが、現場でのEMの効果は圧倒的で、すぐに反対意見は引っ込んでしまいました。

洪水の状況がひどくなり始めた10月上旬に、タイ国政府からEM研究機構にEMの供給の依頼がありました。アユタヤの近くにあったEMの工場は在庫を持ち出した頃には水没してしまい、EMを十分に供給することができなくなってしまいました。タイ国政府は洪水対策に軍も総動員しましたが、不足分のEMは陸軍の好意で安全地帯の倉庫を貸してもらい、フル操業でEMを製造し、十分に対応できる体制を整えることができました。

11月に入り、陸軍と社会開発省、および環境省を中心にEMによる衛生対策の出陣式が行われ、11月3日、インラック首相のEMダンゴの投入を機に、EMによる洪水汚染の浄化活動が本格化しました。

写真1はその出陣式の様子です。写真2はインラック首相がEMダンゴを投入している様子です。写真3は陸軍を中心にEM散布やEMダンゴづくりなどを行っている状況です。住民への協力依頼用のパンフレットはおのおのの部署でもつくっていますが、代表例として陸軍がつくったもの(軍服を着ている)と環境省がスーパーマンをアレンジしてつくったパンフレットを紹介します。タイ語で書かれていますが、注意して見ると、ところどころにEMという字があることに気付くはずです。

このEMの活用は政府だけでなく、タイ国経団連、タイ国仏教協会や福祉協議会などのさまざまな団体も政府と連動しながら、独自のEM活用を積極的に進め、日本から進出した企業の大半も、清掃や衛生管理にEMを活用したとのことです。

当初、洪水後の衛生問題や感染症の拡大が深刻になるものと予測されましたが、最悪な事態はまったく発生せず、タイ国はこの国難をEMで乗り切ったという自信にあふれています。

東日本大震災はもとより、自然災害の対応にEMは不可欠なものであることは、今や世界が認めるようになりましたが、その要は、EMを空気や水のごとく使うEM生活が基本であることを再確認したいものです。

(2012年2月3日)
PROFILE
ひが・てるお/1941年沖縄県生まれ。EMの開発者。琉球大学名誉教授。国際EM技術センター長。アジア・太平洋自然農業ネットワーク会長、(公財)自然農法国際研究開発センター評議員、(公財)日本花の会評議員、NPO法人地球環境・共生ネットワーク理事長、農水省・国土交通省提唱「全国花のまちづくりコンクール」審査委員長(平成3年〜平成28年)。著書に「新・地球を救う大変革」「地球を救う大変革①②③」「甦る未来」(サンマーク出版)、「EM医学革命」「新世紀EM環境革命」(綜合ユニコム)、「微生物の農業利用と環境保全」(農文協)、「愛と微生物のすべて」(ヒカルランド)、「シントロピーの法則」(地球環境共生ネットワーク)など。2019年8月に最新刊「日本の真髄」(文芸アカデミー)を上梓。2022年(令和4年)春の勲章・褒章において、瑞宝中綬章を受章した。


写真1 軍部を含め環境省、社会開発省によるEM活動の出陣式

写真2 インラック首相がEMダンゴを投入し、このプロジェクトが本格的にスタートした(ロイター通信より)






写真3 各地のEM活動状況


陸軍と環境省が配布したEM使用法のパンフレット(写真をクリックすると拡大します)

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