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国の放射能対策は本当に安全か?

前回、地球環境・共生ネットワーク(U−ネット)を中心とする福島の放射能汚染対策と今後の展望について述べましたが、さらにおのおのの活動拠点が地域の公的資産になるように万全を期す必要があります。

昨年の農産物の放射性セシウムは大半が10ベクレル以下となり、地形的に山林からの放射能が流入しない地域を除けば、ほぼ全域で国の基準値をかなり下回る見通しとなっています。そのため国や県は農地の荒廃を防ぐためにも深耕、カリウムやゼオライトの施用や有機物の施用を続ければ、農業生産に関しては基本的に解決できると判断し、従来の作付け制限地域でも作付けする方針を固めています。

そのため、原発から20km圏内であっても稲作は可能であり、今年度以降、数年間の補償を行いつつ、国の基準値を上回る米が収穫された場合は、全量国が買い取ることになったとのことです。この見通しに立てばメデタシ、メデタシということになります。

とは言っても、放射能が消えた訳でもなく、まったく安全になったのではなく国の定める基準値以下になっただけで、問題は山積しています。

まずは低線量被曝問題です。この問題は27年経過したチェルノブイリ原発事故で被災したウクライナやベラルーシでは、今も続いています。この状況を考えると、作物の放射性物質は、限りなくゼロにする必要があります。すでに明らかなように、EMを徹底して活用すると放射性セシウムの作物への吸収は確実にゼロにすることが可能です。

次に放射性ストロンチウムの問題があります。分析にコストがかかるということもあって、わが国ではストロンチウムは無視された状況ですが、ベラルーシやウクライナでは、放射性ストロンチウムがより深刻な問題となっています。放射性セシウムは、時間とともに、土壌中の粘土や有機物などと強く結合し固定化されるため、作物への吸収も徐々に少なくなりますが、ストロンチウムは水に溶けやすく、作物に吸収されやすい性質を持っています。

その上、放射性セシウムは体内に取り込まれ、内部被曝が起こっても、汚染のまったくない食べ物をとり続けると、数か月から半年くらいで体外に排除されるという解決策がありますが、放射性ストロンチウムは、体内で骨組織に吸着され、体外に排出されることはありません。

そのため、ベラルーシでは骨に関するさまざまな疾病が増えており、放射性セシウムのような解決法がなく、放射能汚染問題の中心はストロンチウム対策に移っています。これまで、いろいろな機会に述べましたが、EMは、放射性セシウムのみならず、放射性ストロンチウムの作物への吸収を顕著に抑制する効果があり、ベラルーシでは、EMの活用を本気で取り組む計画を着々と進めています。

福島の原発事故で、放射性ストロンチウムは放出されなかったという確たる証拠はなく、非公式な分析では、放射性ストロンチウムも検出されています。このような背景を含め、福島はもとより、放射能のホットスポット地帯は本気でEMを活用せねばなりません。

その次に懸念されることは、放射性セシウム対策として行われるカリウムの循環のための稲わらの全量還元方式です。稲わらには多量のカリウムが吸収されているため、その稲わらを土壌に戻せば、そのカリウムが放射性セシウムの吸収を抑制する効果があるからです。確かにそのとおりですが、東北地方は気温が低いため、生の稲わらを水田に戻すと、土壌酸素不足の還元状態になり、メタンガスなどのさまざまな有害物が発生し、根の活力は低下し、病害虫が多発し、米の質も極端に悪くなってしまいます。

そのためには、稲わらを堆肥化して戻すようにせねばなりませんが、この労力たるや現実に実行することは限られています。EMを活用すれば、例え生の稲わらを全量水田に戻してもまったく問題はなく、むしろ増収で高品質となります。

そのほかに懸念されることは、いくつもあります。カリウムが多くなると、米はもとより農作物の品質が低下するという一般論です。わが国の農地の大半はカリウムが過剰となっている現実もあります。化学肥料を連用する限り、現在の指針に従うと酸化と還元が頻繁に繰り返されることになります。そうなると、時間の経過とともに固定されていた放射性セシウムが再度溶出して、作物に吸収されることになり、程度の差はあれ、化学肥料中心の栽培法では、必然的に起こる仕組みになっていることを認識する必要があります。

福島におけるEM栽培モデル事業

これまで述べたすべての懸念は、EMを活用することですべて解決できますが、そのためには確たるモデルが必要です。その対応策として、U−ネットのボランティアの協力とともに、2011年の夏からEM研究機構から2名のエキスパートを福島に常駐させ、さまざまな現地指導やデータの収集を行ってきましたが、2013年は、それらの成果をもとに広範囲にEMのモデル事業を進めることにしています。

これまで何回となく紹介しましたマクタアメニティの幕田さんのグループのような、EM栽培に徹し、風評被害を克服し、市場でも高品質ブランドとして通用するような成功例もありますが、水田についての本格的な取り組みは、今年からということになります。

そのため、例え少人数でも、EMの本格的な導入を希望するグループがあれば、私が直接現地を訪ね、専門的な勉強会をすることになり、1月からこれまで3回、4月にはさらに2回開催することになっています。まずは1月27日、二本松市で農業資材を手広く扱いながら、地域の有機農業の育成や生産物の販売に実績のあるファームランドやまろくの佐藤さん父子のお世話で、主に福島県の有機米栽培農家100人余の方々に、稲作を中心にしたEMの活用法と2月号に書いたマイクロバイオームとEMの関係を述べ、具体的な方法を詳しく説明しました。

私の話に先立って、同グループで昨年EMを使って成果を上げた事例が紹介され、さらにEM研究機構からは、福島での調査結果やEMの活用事例などの説明もありました。すでに述べたように福島県ではEMを使わなければならない必然性があります。そうならば徹底してEM化し、他県が絶対に及ばないダントツの福島独り勝ちにすべきであることを強調し、そのことが福島県、または日本農業の未来を開くもので有り、TPP対応も可能であるという話もしました。その結果、かなりの人数の農家がEMにチャレンジすることになりましたので、今秋が楽しみです。

2月24日には原発から20km圏内でEMのモデル農園を推進している、コズモファームの今泉さんのお世話で、田村市で勉強会を行いました。その結果、新たに2名の方が参加することになりました。この地域は冷涼のため、稲の登熟が思わしくなく、もともと低収量で品質もあまりよくない地域です。EMはこのような条件でも多収、高品質が実現できますので、放射能対策と併せて新しい展望が開けるものと考えています。

また、イノシシなどの野生動物の被害も深刻な問題となっていますが、この件もEM波動の電柵で十分に対応できますので、今後の鳥獣外対策のモデルになるものと期待しています。特にこの地域(田村市都路地区)には週に30トンあまりもEM活性液をつくれる拠点がありますので、地域全体をEM化することも容易です。

3月18日は佐藤農園さんのお世話で福島市松川町での勉強会を行いました。参加者(40人前後)の大半は、すでにEMを使っており、それなりの成果を確認している方々が主となりました。EMに徹することの重要性を強調する話となりましたが、新たに百倍利器を導入し、EMの活用をさらに広げたいという申し入れもあり、かなり積極的な展開となりそうです。

今後は4月20日南相馬市原町、4月29日いわき市で同様な勉強会を予定しています。すでに紹介しました南相馬市の酪農家、瀧澤さんの成果はさらに進展し、今では地元産の牧草を使っても牛乳の放射性セシウムは3ベクレル以下、最近では1.5ベクレルという極めて低線量まで下がっています。その結果を受け、5〜6軒の酪農家がEMを活用するようになり、放射線対策と併せて、EMによる酪農革命が静かに進行しています。

(2013年4月5日)
PROFILE
ひが・てるお/1941年沖縄県生まれ。EMの開発者。琉球大学名誉教授。国際EM技術センター長。アジア・太平洋自然農業ネットワーク会長、(公財)自然農法国際研究開発センター評議員、(公財)日本花の会評議員、NPO法人地球環境・共生ネットワーク理事長、農水省・国土交通省提唱「全国花のまちづくりコンクール」審査委員長(平成3年〜平成28年)。著書に「新・地球を救う大変革」「地球を救う大変革①②③」「甦る未来」(サンマーク出版)、「EM医学革命」「新世紀EM環境革命」(綜合ユニコム)、「微生物の農業利用と環境保全」(農文協)、「愛と微生物のすべて」(ヒカルランド)、「シントロピーの法則」(地球環境共生ネットワーク)など。2019年8月に最新刊「日本の真髄」(文芸アカデミー)を上梓。2022年(令和4年)春の勲章・褒章において、瑞宝中綬章を受章した。


 

 

 


東日本大震災復興への道筋をまとめた比嘉教授の書籍『シントロピー【蘇生】の法則』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1月に開催された勉強会の様子

 

 

 

 

 

 

 

コズモファーム(田村市都路町)のEM活性液タンク

 

 

 

 

 

 

 

コズモファームが取り組むEM栽培モデル水田、放射能汚染対策だけでなく冷害やイノシシ害等の問題に対してもEM活用による対策の確立を目指す

 

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