トップ > 有機農業特集 > インタビュー 吉田企世子氏 やっぱり有機野菜は美味しい!
今、日本の農業が大きく変わろうとしています。有機農業を推進する法律ができたことをきっかけに、各都道府県では、有機農業を普及している様々な民間団体や個人、行政が連帯し、有機農業を推進するための具体的な計画づくりを始めています。これは従来の農業政策から考えると180度とも言える転換です。
Webエコピュアでは、「有機農業推進法の画期的意義 日本の農が変わる」と題して、日本農業の進むべき方向や課題、具体的な取り組み、モデルケースなどについて、有機農業に関わる各分野の方に本音で語っていただきます。
第6回インタビュー「やっぱり有機野菜は美味しい!~食べることで、有機農業を広める~」
女子栄養大学名誉教授 吉田企世子氏

「有機野菜は安心安全」。今やこのことは多くの人が認識していることです。吉田企世子氏は、栽培条件による野菜の品質の違いに注目し、有機栽培の野菜が栄養価だけではなく、細胞レベルでも明らかに優位であることを検証しました。栄養学と土壌学を目に見える形で結びつけた吉田氏に、食べて健康になる有機野菜について伺います。


今年ほど、多くの人たちが食料の供給を外国に依存していることに心底不安を覚えた年はなかったと思います。野菜の研究家としてこのような状況をどう考えられていますか。

私が野菜の成分を分析する仕事を始めて45年になりますが、その間、野菜の流通、鮮度保存の技術の進歩は目を見張るものがあります。これらの技術が普及してこそ、海外から野菜が輸入できるようになったわけです。

でも、一方では経済効率だけが重視されて、野菜が生き物として扱われなくなったという矛盾も抱えてしまいました。年間を通してあらゆる種類の野菜を食べられるようになって、食生活は一見豊かになったけれども、一方では食べ方に問題があって、食物が健康につながっていません。

特に収穫後の成分変化が大きい野菜は、より早く食べることが美味しく、栄養的にも望ましいのです。当然、輸入野菜と国産野菜の栄養価には、大きな違いがあります。例えば、 ブロッコリーの場合、ビタミンCの含有量は、輸入のものは国産よりも2割方少ないという結果が出ています。また、食味でも、国内産に軍配が上がります。もちろん、国内産の中でも、あなたが住んでいる土地で採れたものが、新鮮さという点でかなう野菜はありません。

国産および輸入ブロッコリーの成分
官能検査による評価

項目評価輸入品国産品
外観3.5±0.63.4±0.9
歯ざわり3.4±0.13.4±0.4
甘味2.9±0.43.5±0.5
コク3.7±0.33.2±0.4
総合3.0±0.33.8±0.4

 パネル:10名
 評価
 1 … 悪い
 2 … やや悪い
 3 … 普通
 4 … やや良い
 5 … 良い

●野菜の買い方を変える努力を

それから今一番忘れられているのが、旬ということでしょうか。品種改良やハウス栽培の技術の向上で、今では1年中どんな野菜でも手に入れることができます。冬のトマト、夏のホウレンソウも珍しくはありません。確かにハウスだからおいしくつくれる技術もあります。しかし、国内産ホウレンソウの栄養価を1年通して調査してみると、やはり旬である冬に栽培されたものが、一番栄養があることが分かりますね。

このことからも「身土不二」という言葉の通り、その地域で採れた野菜を旬の時期により早く調理して食べるのが、おいしく身体の栄養になるということです。中国産冷凍インゲンから有毒な農薬が検出されたことが不安なら、まず、野菜の買い方を変える努力をしなくてはいけませんね。作物の価格は、安全性、栄養価や美味しさを基準とする、そういう時代がきたのではないでしょうか。


野菜の栄養価は国産野菜の方が高いということが良く分かりました。同じ国産でも、いろいろな栽培方法があると思いますが、先生が栽培方法と栄養価に注目されたきっかけは何ですか?

私は、初めは野菜を食味や栄養素の関係から検討していました。その中で特に関心を持ったテーマは、栽培条件との関係から野菜を研究することでした。私は子どものころ、戦争に行ってしまった男性に変って農作業をした体験があります。食べるものがない時代に育ったために、「食べること」「野菜を栽培する」ことに興味がありました。

その後、家政学で学び、市販の野菜の分析、調理による野菜の変化や、ハウス栽培と露地栽培の野菜の違いなどを研究していました。



研究室で野菜の分析を行う(1985年頃)
農学の勉強は、女子栄養大学で学生に教えながら、東京大学の土壌肥料の第一人者である熊澤喜久雄先生の研究室に通うことで叶いました。そこで、有機質肥料で栽培された野菜と無機質(化学)肥料で栽培された野菜とどう違うかというテーマを立て、研究を始めました。農薬による被害や化学肥料による土壌の劣化が問題となり、有機栽培が注目され始めたころの話です。

野菜の成分は土壌の性質や人が肥料として与える養分によって左右されるわけですから、野菜の品質は、栽培方法、ひいては土壌管理によって変化するのです。土壌学者は、野菜の栄養や食味についての研究は対象外なのです。土壌から野菜を考察する、この発想はその当時、斬新なテーマであったようです。平たく言えば、この仕事は美味しさと土壌の関係を科学的に考察したものです。

しかし、科学的にと一口で言ってもなかなか難しく、天候の条件、種の個性など、一定の条件を揃えることは不可能に近いことです。しかし、ある程度の傾向を掴んだことは間違いなく、学会で発表した時には反響を呼びました。

現在はイギリスなど欧州の野菜事情についての調査を行う(右:ルクセンブルグにて)


予想通り有機栽培は美味しいという結果が出たということですが、その内容について教えてください。

実験にトマトを用いたのは、長年トマトについて研究し、扱いにも慣れ親しんでいたからです。この実験から、有機栽培のものは、どの方向から分析しても無機栽培(慣行農法)よりも優れているということが分かりました。まず、ビタミンC の含有量についてですが、有機栽培のトマトは水分量が少なく、ビタミンC の含有量が多いという結果が出ています。

トマト果実の水分およびビタミンCの含有量

また、還元糖、有機酸についても、同じような結果です。味や健康に役立つ有機酸の総含有量は、有機栽培の方が無機栽培よりも多くなっています。


トマトの美味しさは、甘みと酸味のバランスで決まります。甘み成分のブドウ糖と果糖、酸味成分のクエン酸の含有量が多い有機のトマトは、甘酸っぱい味が際だっていることになりますね。また、トマトの甘味の強さとビタミンC含有量には、正比例する関係にあります。つまり、美味しいトマトは、栄養価が高いということです。このことは、トマトの食味テストでも明らかになっています。

食味テストによる評価
[人数]
有機質無機質
昔のトマトのニオイがする[4]
昔のトマトの味がする[3]
トマトの酸味がはっきりしている[3]
果肉がしまっている[2]
皮が固い[2]
水っぽい[4]
味がうすい[3]
酸味がうすい[2]
ハウストマトの感じ[1]
果肉が柔らかい[2]
パネラーは10名(30~50歳)。

トマトを細胞レベルで考察してみますと、有機栽培の野菜の細胞は緻密で、うま味成分や成長ホルモンなどさまざまな物質が詰まっていることが分かりました。完熟したトマトを光学顕微鏡で覗(のぞ)いてみると、有機栽培の方は細胞がきちんと並んでいますが、無機栽培の方は細胞と細胞の間に隙間がみられ、細胞内に含まれる液胞が多く見られます。

完熟トマトの細胞質 有機質肥料による栽培完熟トマトの細胞質 無機質肥料による栽培
光学顕微鏡でみた完熟トマトの細胞比較 有機質肥料による栽培(左)と、無機質肥料による栽培(右)
また、トマトの皮のすぐ内側の果肉部細胞を見ると、有機栽培の方には細胞質がたくさんあり、栄養成分も多種あることが推察されます。一方、無機栽培の方は、細胞質の数が少なく、液胞の割合が高く、外観上同じ熟度でも、すでに劣化が始まっていることが確認できました。

完熟トマトの細胞質 有機質肥料による栽培(左)と、無機質肥料による栽培(右) 電子顕微鏡でみた完熟トマトの細胞質 有機質肥料による栽培(左)と、無機質肥料による栽培(右)
葉についてクロロフィル濃度を測定してみると、有機栽培の方が多く、このことで有機栽培は光合成が活発に行われていることが分かります。また、有機栽培の方は、茎や葉にサイトカイニン(若さを保つホルモン)が多いことも確認されました。このことは、有機野菜が新鮮さを保持できる能力を持っている裏づけになります。

トマトだけではなく、他の有機野菜についても同じ傾向があると考えられます。ただし、種をまいてから収穫までの期間が短い野菜、例えば、ホウレンソウなどは有機肥料の効果が観察されない場合もあります。


有機野菜の良さは、科学的にも認められるということですね。

私の研究から、有機栽培と無機栽培の野菜を比べると、有機栽培のものが栄養価、食味、細胞構造などの点で優れていることが分かりますが、有機質肥料を使ったから美味しいとか栄養価が高いとは簡単には言えません。なぜならば、有機質肥料そのものの品質がどうかという問題もありますし、有機栽培の場合は特に、品種選択や栽培技術が大きく影響するからです。品種に対応した施肥量、資材の見直しは、有機農家の努力にかかっていて、これらの技術は常に検討されなければなりません。

しかし、有機質肥料を使うと土が顕粒状になることは確かです。有機農業を長年行っている畑に行き、その土を観察すると、その違いはすぐに分かります。足を入れれば、ズブズブと入るぐらいにフワッとしています。土壌には、ミミズやたくさんの虫や微生物がいて、それらが分解して有機物や無機物を生成し、とても肥沃な土になっています。

トマトの根の状態 トマトの根の状態
専門的には団粒土壌といいますが、小さな粒子が集まっていて、空気も水分もほどよく保てる環境になっています。先ほどのトマトの研究から分かりますが、有機栽培と無機栽培では根っこのはりの差が一目瞭然で、有機栽培の方はしっかりと土壌から栄養分を吸収し、作物を支えています。根がしっかりしているということは土壌環境が良いということです。

現在、これは日本に限ったことではありませんが、土壌はとても劣化しています。それを改善するためには、地域から出る有機物、例えば、街路樹の落ち葉でも、食品産業の残渣や家庭から出る生ごみでも、上手に堆肥化して肥料として土に返すことが求められます。生産者の手間や労力もかかりますが、そうすることが、私たちが、美味しくて安全な野菜を食べることにつながるのです。同時に環境保全のためには、有機農業が果たす役割は大きいものがあります。こうしたことを理解した上で、しかるべき機関の技術的サポートと、消費者の参加が何よりも求められていると感じます。

ただ、注意すべき点は、有機質肥料をたくさん畑に入れた場合、窒素が作物に過剰に吸収されて硝酸含有量が高くなったり、地下水や排水への環境へ負荷をかけたりする恐れがあります。


家政学の立場から、その野菜を調理して食べることについてお伺いします。野菜は十分に食べられているのでしょうか?

厚生省では、「野菜を1日350g食べましょう」と言っています。野菜はビタミンやミネラルなどの栄養素や食物繊維の供給だけではなく、現在では野菜に抗酸化作用や発がん予防などの働きがあることが、はっきりしてきました。今まで以上に野菜の役割は大きくなってきたのです。けれども、特に若い人の野菜離れは深刻です。ビタミンの研究者らが若者の血液中のビタミン濃度を測定したら、およそ半分は、ビタミンC不足という結果ということです。

一方、健康食品についての情報は、メディアを通して次々と流されています。食品には、それぞれ特有の成分が入っていて、単一で栄養と食味がすべて満たされることはないのです。特定の野菜だけを食べて健康になれるということはありません。食べることの基本がしっかりできていれば、情報に振り回されることはないと思いますが。

●調理する力

野菜から摂取されるビタミンなどの栄養素は、同じ野菜でも保存法、調理法で大きく変わってきます。特に水溶性のビタミンCは、ゆで時間や水にさらす時間によって、相当な違いがあります。ぬか漬けにするとビタミンBが増加することにぜひ注目して下さい。


調理法で摂取量が違う

ジャガイモは丸ごと40分熱しても大丈夫

ゆでる前を100%とすると、ビタミン残存率は


ホウレンソウはゆですぎると損!

生(0分)を100%とすると、ビタミンC残存率は


キュウリは24時間ぬかづけすると

つける前を100%とすると、ビタミンの変化は




また、野菜は部位によって成分量が大変違うことも、知っておいてほしいことです。今まで捨ててしまっていた外葉や芯の部分に多くのビタミンCが含まれています。野菜まるごと上手に使う工夫をすれば、効率よく栄養が取れます。有機野菜なら安心して野菜全体を食べることができますね。


捨てるところにはビタミンたっぷり




●子ども時代に食の教育を

一番大事なことは、子ども時代に「食べる」という生活者としての教育をすることですね。何を選び、どんなふうに食べるか。自分で野菜を栽培してみれば、なお一層食への関心は深くなるでしょうし、環境問題への目を養うことができます。地域によっては、給食の野菜を栽培する自給菜園も誕生しているようです。これは素晴らしいことです。

現在では、有機栽培・自然農法で育てられた野菜セットは、手軽に買い求めることができる(写真提供:株式会社瑞雲) 現在では、有機栽培・自然農法で育てられた野菜セットは、手軽に買い求めることができる(写真提供:株式会社瑞雲)
それができなくても、この地域でつくられている野菜はなんだとか、その現場へ出向いて、野菜をつくっているおじさんと話をするだけで、食べ物に対する思いは変化します。食べ物の向こう側にいる人々とつながることが大切です。

一方、親の方の食育は心配ですね。少なくとも、小学校低学年までの時期は、子どもにしっかり食事を与えることが、親の第一の務めだということをもっと自覚してほしいと思います。

本屋さんには、キラ星のごとく、お料理の本が並んでいるでしょう。お料理をつくるということは、みんな興味のあることであり、大切だと分かっている証拠だと思います。ただ、その食材を見極める情報が少ないのが心配ですが、美味しいものを愛情込めてつくってあげたい、自分も食べたいという気持ちを大切にしてほしいです。今まで話したように、その上で国産・旬・有機栽培の野菜を是非選んでください。そうした行動が、有機農業の推進にも大きな力になると信じています。

(グラフ、データ、写真提供:吉田企世子氏。無断転載、コピー禁止)

[2008/12/16]

吉田企世子(よしだ・きよこ)
1934年栃木県生まれ。日本女子大学院修士課程修了。農学博士(東京大学)。専門は食品学、食品加工学。現在、女子栄養大学名誉教授。(財)日本醤油技術センター理事。(財)中央果実生産出荷安定基金協会評議委員他。主な著書に「野菜の成分とその変動」(学文社)、「野菜−畑から食卓まで」(女子栄養大学出版部)、「もっともっと野菜の本」(文化出版局)など多数。平成18年からイギリスへ留学。ヨーロッパの野菜事情などを報告した「ヨーロッパ野菜便り」を月刊誌「栄養と料理」(女子栄養大学出版部)で連載(平成19年5月号~12月号)。

野菜の成分とその変動 ― 土壌環境からのアプロ−チ
野菜の成分とその変動
― 土壌環境からのアプロ−チ
吉田企世子/森敏/長谷川和久
学文社
2005/9/10 \2,100(税込)

もっともっと野菜の本
もっともっと野菜の本−1日に
350gの野菜をとりましょう!
吉田企世子/猪狩忠清
文化出版局
2007/7/1 \1,680(税込)

食の検定食農3級公式テキストブック
食の検定食農3級公式テキストブック
食の検定協会/吉田企世子
農山漁村文化協会
2007/2/28 \2,625円(税込)

あたらしい栄養学 ― 安全においしく食べるための
安全においしく食べるための
あたらしい栄養学
吉田企世子/松田早苗
高橋書店
2006/12/25 \1,365(税込)

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