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自主検査で安心を届ける
「アグリSCMふくしま」契約農家の挑戦 その2

福島に再生の光を
大地よ甦れ



田中さん(左)と幕田さん
福島原発事故から9か月余り、苦渋に満ちた2011年が終わろうとしている12月末、福島の農家を訪ねた。この日、福島第一原発事故の中間報告が政府に提出され、事故発生時にSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)のデータがすばやく伝えられていたら住民の被曝は避けられていたことも明らかになった。2日前には年度末の支払いや将来に悲観したリンゴ農家が、手塩にかけた農園で自ら命を絶っている。なんともやりきれない思いを抱きながら、「アグリSCMふくしま」契約農家の田中壮介さんと大内孝・有子さんご夫妻にお話を伺った。3人とも、有機質を活用するベテラン有機農家だ。

循環を切るな



発酵鶏フン堆肥の山


寒さで甘みを増す小松菜
「これが、以前研究者に熟成堆肥とほめられた堆肥だよ」と指差すのは、伊達市でほうれん草・小松菜を通年一貫生産する専業農家の田中壮介さんだ。15年前からつくり続けてきた「宝物」と呼ぶ堆肥だ。鶏フンと籾殻と微生物でできたこの堆肥をかき混ぜると、湯気が出る。まわりは白銀の世界でもこの堆肥の山には雪が積もらない。大手百貨店では、真夏の一時期を除き、田中さんの野菜コーナーができるほど、多くのお客さんに支持されているのも、この堆肥の賜物だ。しかし、福島第一原発事故後、最初に出荷制限がかかったのが、この地域の露地のほうれん草、小松菜だ。むろん田中さんのものから検出されているわけではないが、従うしかなかった。

耕作面積は約4ha。「刈り取った野菜は1か所にまとめて指示があるまで保管しておくこと」と通達がきていたが、どのように保管するのか理解できなかった。伸びた野菜を草刈り機で刈り取り、畑の外に積んだ。出荷できないからには収入はないから、仕事がなくなった従業員はやめてもらった。しかし、毎日の生活費と生産コストは積みあがっていく。田中さんは、いつ出荷解除になっても良いように、ひとりで種まきを続けた。「福島でどうして種まきをするのか」という批判は承知の上だ。注文もないと覚悟の上で、なんの保証もない作業を支えたのは、どこよりも安心で、新鮮でおいしい野菜を届けてきた農家としてのプライドだ。そして、地域の循環を切らないためだ。捨て場のない鶏フンはどうする?

注文に報われる



雪や風よけのトンネルが続く畑


倉庫の中で出番を待つ活性液
畑一面に広がるビニールシートのトンネル。保温のためと言うよりは、風などで葉が傷まないように育て、ある程度育ち葉肉も厚くなったらシートを剥いで行く。ここで一気に風雪、寒さにさらすと、一気に甘みと光沢が増す。化学肥料で育てた野菜のようなエグミがまったくなく、ハウスで育てた軟弱な歯応えとは格段に違う。食べればバリバリと音が出そうな厚い葉肉が自慢で、品質の高さは折り紙つきだ。しかし、出荷制限が解除され、地元の直売所で販売しても自慢の野菜は売れ残った。堆肥も野菜は、放射性セシウムは不検出だが、どうにもならない。

「地元が食べない野菜を東京の人が食べるか。今年は、あきらめるか」と覚悟を決めたときに、思いもかけずに契約するマクタアメニティ㈱から百貨店向けの注文が入った。「きちんと検査していれば、あのおいしいほうれん草や小松菜を食べたい」という支持者がいたのだ。この朗報に硬直していた身体が初めて緩んだという。田中さんは、今日も明日も雪の中を黙々と作業を続けている。

 

農家として生き抜く



300本の梨畑


1本1本削る


放射線量を測る
代々続く梨農家の大内孝さんご夫妻と会うのは、夏に続き2回目になる。その時は、お盆用の菊の出荷に忙しかった。声をかけるのがはばかれるほど、ふたりは疲労困憊していた。大内ご夫妻が反原発運動を長く続けていることは後で知った。孝さんは、ある集会で「原発に屈服するのか、闘うのかが厳しく突きつけられている。ここ福島で生き延びようとするならば闘う以外ない。地元としては、事故を止めることができなかった責任、原発を存続させた重みも感じている。福島をわれわれの主導権で再生させ、福島の大地を甦らせる」と宣言している。

その大内さんは、雪に覆われた梨畑で放射性物質の除染作業に汗を流していた。梨の木の皮を剥ぎ、高圧ポンプを使い樹木を水で洗浄する。作業前の空間線量も測り、除染後の変化と合わせて効果を確かめながらの作業だ。300本の梨の木を終えたら、剪定作業に移る。寒さの中での除染作業になるが、やり切る覚悟だ。

果樹王国の福島にとって、桃の販売時期に稲ワラ汚染が問題化し、リンゴの出荷時期には米から規制値を超える放射性セシウムが検出されるなど、不運が続いた。消費者がより安全な作物を求めるのは理解できないわけではない。問題は、これから先どう大地を甦らせるかだ。今まで培ってきた有機農業の技術と経験が役に立つのではないか、時間と共に大内さんの確信になってきたように見えた。

いのちと食を守るということ



希望のようなリンゴ


福島で生き抜く覚悟の大内夫妻


お餅を作る有子さん
大内さんのパートナーである有子さんは、お正月の餅つくりにおおわらわだった。その手を休めて語ってくれた話は痛切だった。今から26年前の初夏。チェルノブイリ原子力発電所の大事故が発生した数日後の5月。噴出した死の灰は日本にも降り注いでいたが、その空の下で梨の花粉交配の作業をしていた有子さんは、お腹の赤ちゃんの異常に気づく。結果的には、無事元気なお子さんを与かったのだが、この時の子どもの訴えが、まぎれもなく「原発のない平和な社会へして」という願いに聞こえた。チェルノブイリ原発事故以後、ヨーロッパの女性たちは「子どもたちのためにすべての原発を止める」と宣言した。有子さんもこうした母親たちの固い決意に連なりたいを心底思ったという。

しかし、福島第一原子力発電所の事故は、有子さんの足元で起こった。4月、NPO法人「チェルノブイリ救援・中部」理事で四日市大講師の河田昌東さんを講師に緊急集会をもち、その後「福島・未来塾すばる」というブログを開始した。福島の現実、想いを世界に伝えるためだ。さまざまな支援も励ましもあったが、言われなき誹謗と中傷にもあった。

「関西から来た専門家が、果樹園の土のサンプルや写真を、たくさん持ち帰ったけれども、その中の一部の方々は、私たちに無断でデータを公表したり・・・。都会の集会で、私たちの営農の権利さえも否定する発言をしたり・・。私たちを追い詰めているのは、政府や東電だけではないことを、皆さんに考えてほしい」。
「命を守るための正義の剣で、別の命を傷つけてはいないだろうか。反原発は、差別問題を内包しやすい運動であり、そのことの自覚なしにメッセージを発信することの危険性を、心に留めてもらいたい」。

事実、ある団体は昨年秋の集会で「汚染の高低にかかわらず、福島県産の物は低レベル廃棄物である。県外に拡散することは『殺人予備行為』に他ならない」という宣言文を発表している。「福島は、除染しても無駄だ。そこに住み続けるとか、農業を営むことは、福島は安全な土地だという間違った認識を拡め、子ども達の避難に悪影響を及ぼす」ということであろうが、「福島の農民を守ることなくして、いのちと食を守ることができるか」、有子さんの悲鳴に似た抗議は都会の人々の耳に届いているだろうか。

痛みを伝えて共に一歩を

有子さんは、年明けのブログにこう書いている。「昨年はピストルで撃たれて倒れている状況でした。瀕死の重傷の人に『ピストル所持(原発)に反対しよう』とか『犯人(東電)を告訴しよう』とか言う人はいないと思います。まず手当てをしますよね。相手を攻撃するのではなく、私たちは傷ついていますと、痛みを伝えていくことで一歩を踏み出したいと思う」と。

実際、2月27日から開かれるニューヨークの国連本部で開催される第56回国連婦人の地位委員会で日本の女性農民の代表としてスピーチすることが決まっている。「まず、謝罪をしてから、これを機会に福島から世界を動かしていきたい」と決意は固い。もちろん、私達の栽培方法で栽培した作物から幸い放射性セシウムが不検出であったことについても発表する。



支援の寄せ書き
福島の大地を甦らせる手段と方法はまだまだ手探りの情況だが、朗報もある。福島県が公募した平成23年度「民間等提案型放射性物質除去・低減化技術実証事業」に田中さんや大内さんが加わる「アグリSCMふくしま」を運営するマクタアメニティ鰍ェ提案した技術が採択された。技術は醗酵肥料・堆肥を活用した腐植などを増やす土壌改良により、放射性物質の作物への吸収を抑制する技術で、現在、実証試験の段階に入っている。実証事業は、76件の応募から10件が決まった。なにはともあれ、至急に手当てしなくてはならない。人も大地も。(小野田)

(2012年1月20日)

外部リンク

福島・未来塾すばる

関連項目

自主検査で安心を届ける
「アグリSCMふくしま」契約農家の挑戦

幕田武広ふくしまリポート


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