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ファーマーズマーケットでリンゴを売る農家
今ほど、食品に消費者の関心が集まっている時代はないかもしれない。その影には、メディアの影響もある。ドキュメンタリー映画、「フード・インク」(www.cinemacafe.net/official/foodinc/)「キング・コーン」(www.espace-sarou.co.jp/kingcorn/top.html)などは見る者に衝撃を与え、毎日の食生活を改めて考えさせた。また、インターネット上のブログ、フェイスブック、ツイッターを介して、様々な食品の安全性に関する情報が交換され、社会に行き渡り始めている。その結果、子供の健康を願う若い母親らなど、安心安全な食品を求める消費者の声が大きくなった。

ハートマングループ食品流通協会の調べによれば、2000年に入ってからの5年間、有機農産物を買ったことがあるとアンケートに答えたアメリカ国民は、全体の3分の2にものぼる。

オーガニックスーパー全米チェーンの店舗数は、年々増えている。その代表格「ホールフーズ」は、2000年には、マンハッタンに1店舗しかなかったが、今では7店舗もあり(北米、英で約310店舗)、リーマンショック以降の経済不況などどこ吹く風と、成長を続けている。

強い消費者からの要望

ニューヨーク州ロチェスター市は、二つのファーマーズマーケット(露店産直販売所)を7年前から開設した。消費者からの熱いオーガニック願望を考慮し、そこで農産物を販売したい農家に対しては、有機栽培認定証の取得、もしくは、有機栽培や永続的農法での栽培を要求していると、地元新聞デモクラットクロニクル紙は伝えている。

この消費者の意向は、慣行農家にも大きな影響を及ぼしている。同紙によれば、ニューヨーク州でも指折りの養鶏農家「クレハー農園」は、4年前から有機卵の試験的生産を始めたが、今では生産が追いつかない。ここの卵の仕入れ先でもある、ニューヨーク州西部で幅広い販売網を持つスーパーチェーン「ウエグマンズ」は、この需要の伸びを見て、新たに、将来有機卵生産への移行を志す養鶏場540戸との契約を計画中だ。

広がるファーマーズマーケット


「ファーマーズマーケットのすべてが好き」と30年通い続ける熱烈なファン。
アメリカでは、前述のファーマーズマーケットやCSA(Consumer Supported Agriculture─地域密着型農業)などに代表される、仲介業者が存在しない、産直型販売システムが普及している。

アメリカ農務省によると、直売システムを通しての農産物売上げは、2007年までの10年間で105%の伸びを示し、中でもニューヨーク州は、その全米上位10州の1つであり、売上高は4倍の早さで成長している。これは、「地産地消」を求める消費者が増えている裏付けに他ならない。

大都会ニューヨーク市にも、ファーマーズマーケットが数多く存在し、ここ数年で急激に増え、市内65カ所までになった。

マンハッタン地区の中心ユニオンスクエア内のファーマーズマーケットは、観光名所にもなっていて、1976年開設当初から続いている最も古いものの一つだ。そこに参加する農家の数は、30年前には12戸しかなかったのに、今では140戸が参加している。

ここに来る買い物客の中には、一般のスーパーではほとんど買い物をしない人たちも増えている。ユニオンスクエア近くに住むSさん(匿名希望)は、ここの立ち上げ当初から30年近く通っている熱烈なファンだ。最初は野菜の新鮮さに関心があっただけだが、「地元野菜を消費する」という“ローカルフード”の思想に共鳴し、環境的にも、健康的にもよりよい生活をしたいと願っている。

ここには、各家庭から出る生ごみの集積場もある。生ごみは、一度マンハッタン内にある堆肥センターに運ばれ、ミミズなどによる堆肥処理が行われ、熟成後、園芸用コンポストとして販売される。ここによく生ごみを持ってくる消費者の一人は、「何か少しでも環境にいいことをしたいと思って利用しています。ここでこんなことをやっていると知った時は嬉しかった」と語ってくれた。

CSAが結ぶ地域と農業


自家製ベーコンを自慢する養豚農家。ファーマーズマーケットの農産物はバラエティに富み、野菜果物の他にも苗、ジャム、せっけん、ろうそく、バターなども
CSAには、様々な形態があるが、農家を支持する消費者たちが会員になり、農場(または特定の受け取り場所)に特定日に直接出向いて、農産物を買うシステムが多い。遠隔地に住む会員には、定期的に宅配便が送られるケースもある。約20年前から始められたこの方法も、今ではすっかり定着した感がある。2007年のアメリカ農務省の調査では、全米ですでに12,549戸の農家がCSAを通して農産物を販売している。

CSAを利用する消費者たちは、その農家や野菜についてとても自慢げで、まるで彼らは、その農家の一員であるかのような語り口だ。マンハッタンハーレム地域でNYCフードバンク主催のCSAをコーディネートするアナさんもその一人。アメリカでは、低所得者ほど肥満になりがちで、それをCSAによって解決できないものかと模索中だ。

定期的に送られるニュースレターには、農家発信のさまざまな情報やその利用者からのフィードバックも掲載される。農場ツアーなど楽しいイベント情報など盛りだくさんで、そんな活動の中から、会員同士の交流の場が自然と生まれている。CSAを通して、食生活の向上だけではなく、よりよいライフスタイルをめざしたコミュニティが、農場を中心に形成されているのだ。

オーガニック運動がもたらす新しい認識と可能性


生産者と消費者をひとつに結ぶ生活が生きがいある人生を呼ぶ photo at Stony Creek Farmstead
昔はもっと、身近に農家の存在が感じられたように思う。しかし、特に第二次世界大戦後、生産者と消費者が遠く離れてしまい、大自然と人間が切り離された生活を送るようになった。その結果、生命や生きがいについての価値観が変わり、人生を悲観的に考える人が増えたように思う。

しかし、オーガニック運動を起点としたファーマーズマーケットやCSAに見られる動きが、再び生産者と消費者を結びつけ、生命の息吹を日常生活の中で感じさせ、本当の幸せを人類が簡単に見出せるような社会を生むとしたら、こんなに嬉しいことはない。

これからもオーガニックの動きに関して、日本の影響は大きいと思われる。堆肥づくりの技術は、日本から教わったと語るアメリカ人農家も多い。また、「地産地消」の考えは、もともと日本から生まれた。昭和初期、果敢にも農薬を一切使わない自然農法を始めた農家を支えたのは、その価値が分かる近隣の人々だった。その時代からCSAは日本に存在していたのだ。

アメリカでは、遺伝子組み換えで有名なモンサント社などの大企業が勢力を拡げている。その一方で、長年、小さいながらも地道に続けてきた有機農家たちがいる。その情熱と努力を原動力に、草の根的に続けてきたオーガニック運動が、今、一つにまとまり、大きな動きとなって台頭してきた。それは、以前には考えられなかった、メディア、教育界、旅行業界、レストラン業界など、多種多様な人たちが協力し合い、連携を保ちながら、複合的に絡まって発展を続けているのだ。これらの活動に、これからも目が離せない。(ニューヨーク特派員:荻野未来)


(2012/2/28)
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