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東京都のほぼ中央に位置する日野市で、生ごみを燃やしたくない市民とおいしい野菜を自給したい市民が手を結んだ。「都市を生ごみで耕そう」を合言葉に約200世帯の生ごみを回収し、直接畑に持ち込んで無農薬・無化学肥料で野菜や花を育てている市民グループ「まちの生ごみ活(い)かし隊」の活動が話題になっている。視察に訪れる人たちも増えている。実際に訪ねた。

ちょっとしたコツでうまくいく
新宿からJR中央線特別快速で29分、日野駅から車で10分、新興住宅地の中にぽっかり空いた空間が、「まちの生ごみ活かし隊」が運営する「せせらぎ農園」だ。朝10時から、約100軒の家庭をまわり、生ごみを回収してきた軽トラックが帰ってきた。手際よくメンバーが生ごみを広げていく。冬場のせいか、生ごみ特有のニオイはない。みかんの皮や白菜の外葉など、いかにも冬らしい食材が目立つ。食べ残しは入っていないせいもあって、「生ごみはきたない」というイメージをもっている人にとっては、「生ごみって意外ときれいじゃない」と思う光景だろう。

約20uの区画の土の上に、鍬を使って生ごみを広げ、表面に発酵を促すEMボカシをまき、生ごみを2回耕運機で土に浅く漉き込む。その上に落ち葉をかぶせ、雨よけのブルーシートで覆い、さらに鳥よけのネットをかぶせる。1週間後、浅く切り返しをして2週間程度おけば、生ごみは自然発酵して跡形もなくなり、ふかふかの土になるそうだ。養分が豊富になったこの土に、野菜や花の種を直接まいて育てる。収穫が済むと、再び生ごみを混ぜて土づくりだ。実に効率のよい「いのちの循環農園」だ。


玄関前に置かれた密封バケツから生ごみを回収する作業からスタート

小さな循環をつくる
新興住宅の中でぽっかり空いた農地に市民が集まる
新興住宅の中でぽっかり空いた農地に市民が集まる
活かし隊は、ごみの減量に取り組む市民グループの参加者が中心になり、2004年に家庭の生ごみを回収し牛ふんと混ぜて堆肥をつくり、販売することからスタート。2006年に地元小学校区域で生ごみリサイクルの普及を行うことを目的に正式に発足した。堆肥化施設のあった牧場が閉鎖したのを機に、約20aの農地に生ごみを直接混ぜて肥料にし、野菜や花を栽培する取り組みを始め、今年で5年目になる。

生ごみは、周辺の約200世帯の協力を得て、週に計600〜700kgを回収。腐敗による悪臭を防ぐため、専用の蓋付きバケツと発酵を促す竹パウダーを配布している。竹パウダーや発酵促進に使うEMボカシも地元の福祉施設が製造、販売しており、すべて地域の資材を使っているのが特徴だ。

生ごみを出す家庭は、年間2000円の活動費を負担し、発酵剤の竹パウダーやEMボカシは会員であれば、無料で受け取れる。日野市では、「まちの生ごみ活かし隊」に年間120万円で生ごみリサイクルを委託している。この活動により、年間およそ50トンほどの生ごみが、焼却されず肥料に変わっている計算だ。

都市を生ごみで耕す

近所の子どもたちや、若い母親たちが土にふれる。野菜はみんなで分ける
毎週2回畑で行われる農作業には、近隣住民10〜20人が集まる。子育て中の主婦や定年退職した元会社員らが、一緒に農作業を楽しむ。日常的な農園の管理を行うのは、林光雄さんだ。60歳を過ぎてから、先祖代々の100坪の畑を耕し始め、その意欲を「まちの生ごみ活かし隊」代表の佐藤美千代さんに高く買われ、「スカウトされたわけ。でも、なんだかはまってしまって、忙しい老後になってしまった」と笑う。

このほか隊では、地域の子どもたちにサツマイモの栽培・収穫体験の場を提供しているが、この日は市の移動教室で、みさわ保育園の園児たちが農園を訪れ、ブロッコリーや長ネギの収穫や麦踏みを行った。麦踏みなど体験したことのない大人もいて、子どもたちも大人も真剣そのもの。

「野菜や花を楽しめるだけではなく、子どもから老人まで地域のコミュニティーづくりにもつながっている」と手ごたえを感じている佐藤さんは、「理解ある地主さんの農地で一緒に活動できて幸運だった。市民がもっと農地利用しやすいよう農地法が改正され、生ごみや地域の社会資源がつながり、都市農地を農地として維持するしくみができれば最高だ」と言う。

かろうじて残っている都市近郊の農地も、生産者の高齢化で担い手を失い、相続が起こるたびにどんどん宅地化されている状況だ。生ごみの受入先ともなる農地や緑地をこれ以上減らないためにも、都市農家と市民が協力して耕せるしくみが課題だ。「生ごみ」は宝であり、「都市を生ごみで耕そう」という合い言葉は決して大げさな話ではない。

※日野市は東京都のほぼ中央に位置し、北に多摩川、中央に浅川が流れ、南部はゆるやかな丘陵地で、新宿からJR中央線特別快速で29分、京王線の場合高幡不動駅まで特急で30分。人口178,731人世帯数82,169世帯の住宅都市。2000年からごみ有料化と戸別収集を始め、ごみ減量とリサイクルに効果をあげている。現在、ごみ焼却施設の立替えにあたり、単独の処理施設か、国分寺市、小金井市との3市共同処理施設にするかの議論が起きている。こうした中で「まちの生ごみ活かし隊」は、さらなるごみの減量を訴えている。

生ごみ野菜はすごい!


日野第3幼稚園での吉田さんの生ごみ元気野菜づくりセミナー
「まちの生ごみ活かし隊」は、家庭の生ごみを直接畑に持ち込む方法を、長崎県佐世保市のNPO法人「大地といのちの会」のやり方に学んだという。「生ごみ先生の元気野菜革命」などの著書がある同理事長の吉田俊道さんは、元農業改良普及員で、長年生ごみリサイクルによる野菜づくりに取り組んでいる。

「野菜の皮や芯などミネラルやビタミンの多い部分の生ごみは、土の微生物を増やし、とても有効な肥料になる。さらに落ち葉などの草を入れると採れた野菜は栄養素が高く、食べた人が元気になる」菌ちゃん野菜を奨励し、長崎県だけではなく全国各地の幼稚園や保育園、小学校などの食育活動に取り入れられている。

日野市にある5つの市立幼稚園でも、吉田さんの指導で生ごみリサイクルセミナーが開かれ、園児とその母親たちが生ごみを土にかえすことで微生物とつながり、食の意識を高めている。生ごみリサイクル野菜の栄養価については、九州大学大学院の比良松道一先生が科学的な研究を始めた。「まちの生ごみ活かし隊」の佐藤さんも、「この方法でつくる野菜はおいしく健康にいいことは実感としてわかっているが、なぜ生ごみを使った有機の土は虫や病気に強い元気野菜を育てることができるのか?がわかれば、もっと食への意識が高まるのでは」と期待している。

(2013/3/2)
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