レポート(トピックス)

遠藤かつゑさん ガーデンの終活(しまい方)― 花と共に生きて 「EMガーデン 花*花」 遠藤かつゑさん

花で社会貢献を

「オープンガーデン」。発祥の地はイギリスですが、その歴史に遅れること100年、日本でも、「庭を公開する」活動が全国各地で定着してきました。この活動は、ガーデナーが丹精こめた庭を公開するだけではなく、庭を通して地域の人々が交流する場となって、街づくりにも多大な貢献をしています。

そんなガーデナーの一人、山形県長井市の遠藤かつゑ(67歳)さん。1998年、彼女のガーデン物語は、築59年の古い家付きの土地を購入したことから始まります。建設業を営んでいる家族で家を改装。庭は、当時幼かった二人の孫の面倒をみながら、花好きの遠藤さんが精力的に整えました。雑木林を切り、EMを活用して250坪に600種の草花が育つ理想の花壇を造り上げました。季節ごとに表情を変える美しい庭は、だんだんと花が好きな人たちの間で話題となり、多くのギャラリーが訪れました。

およそ20年間大切に育ててきたガーデン

その成果は、長井市の「花いっぱいコンクール 個人部門最優秀賞」受賞を皮切りに、日本園芸協会主催の「全国ガーデニングコンテスト」に入選。2009年には、「第18回 全国花のまちづくりコンクール 個人部門 国土交通大臣賞」を受賞するという栄冠にも輝きました。

さらに活動の幅は長井市内だけにとどまらず、自身が主宰する「EMガーデン花・花」の仲間たちと県内各地(米沢市、川西町、高畠町、天童市、東根市、朝日町)のガーデニング指導や花壇の植栽管理などを手掛け、花のまちづくりへ多大な貢献をしてきました。また、環境問題にも取り組み、「花と緑・環境の会」を設立後には、7年間でEMインストラクターを400名以上育てました。

その遠藤さんが、自らの終活を始めたというのです。それも、花の「終活」。「終活」とは、人間が自らの死を意識して人生の最期を迎えるための様々な準備や、そこに向けた人生の総括を意味する言葉です。

きっかけは、お孫さんが家業を継ぐまでに成長したことでしたが、遠藤さんの弟さんが亡くなったことで、一層自分の老後を意識するようになったといいます。彼女にとっての終活とは、すなわち花の終活。花と共に生きてきた遠藤さんならではの「終活」です。

荒地をガーデンにする

長年手塩にかけて育てた花を自然に還す場所探しが始まり、ついに今年3月、運命に導かれるようにそれは決まりました。というのも、土地売買の契約の日の朝、地主さんの94歳になる母親が、「家があったあの土地に花がいっぱい咲いている夢を見た」というのです。地主さんも「こんなに荒らしておくよりも、花を植えてもらえれば、父親も喜んでくれる」と快諾。それを聞いた遠藤さんは、この土地に生きたご先祖様が応援してくれていると確信しました。

その土地は、自宅から車で6分。40年前、スキー場になる計画が持ち上がり、ここにあった集落は街へ共同移転していきました。残された土地は、くずなどの雑草に覆われ、築60年になるヤギを飼っていた小屋だけが残り、それも野獣たちの住処となっていました。米どころの長井市といえども減反につぐ減反で、平場で日当たりのよい耕作放棄地はたくさんあります。なのに「どうして、こんな荒地を」という問いに遠藤さんは、「荒地であればあるほど、闘志がわく。そこを開拓するのが好き。そこで花に寄り添った生活をしたい」と答えます。

荒地を開拓してから半年後のガーデン

「地上の天国=花園」のためには、まず地下に「天国=土壌」を造らなければなりません。作物の根が張っている部分は水はけが良く、その下に水持ちの良い粘土質の土があるのが理想的な土壌。一見して荒地に見える土壌こそ、野菜や花づくりには適しているというのです。

「雑草が土を掘り進めて軟らかくしてくれているので、次に植える花が根を張りやすいのよね。」

つまり、雑草が光合成で作った糖分を根から出して微生物を集めているので、作物が育つには、丸裸の土地よりも荒地の方が条件にあっている、のだそうです。また、根があった部分は土の中でトンネルのように空洞となっているので、そこに植えた花の根が伸びていきやすい。なによりも、人に踏まれていないから土は意外にもフカフカです。

木くずで土をカバーする

自宅の庭の4倍、800坪の森は木も伸び放題、日当たりも悪くうっそうとしていました。まず、夫と孫の力を借りて44本の木を伐採。木株はベンチや花壇の柵にしつらえ、木の枝は炭にしてEM活性液をかけ、土壌改良剤として利用しました。木くずは、土の乾燥を防ぐために庭全面に敷き詰めます。

難題は、くず、わらび、ウド、スギナなどの草取りでした。草取りは、同時に土づくりでもあるのですが、女の手では絶対に無理だと思われるほどの重労働です。しかし、遠藤さんはひとりで2ヶ月かけて成し遂げました。

EMで楽園に

雑草を制覇した後は、貝殻石灰とEM炭、そして塩、EM活性液を全体に施しました。
800坪の土地に使用した塩の量は40kg。伐採した小枝を使用したEM炭は、8か所に穴(縦横2m、深さ1m)を掘って埋めました。さらに栄養分の補給に有機たい肥(岩手コンポスト製造)を施し、微生物の住みやすい環境をつくりました。土の環境が変わることで雑草も少なくなるのは、自宅の庭で経験済みです。


花壇の配置は自然と頭に浮かび、すでにガーデンのイメージが明確に出来上がっていました。その計画通りに自宅で育ったプリムラ、水仙、あやめ、シャクヤク、ヤブラン、アガパンサス、うるい、オダマキ、アスチルベ、ユリ、紫陽花、その他様々な花を植え付けていきます。すべてがこの土地に自生する草花や宿根草なのでなじむのには問題なく、3年もすれば春、夏、秋と四季折々の花が花壇いっぱいになるとのことです。

しかし、変化はすでにおきていました。荒地が花畑に変わって、蝶やミツバチが集まってきました。クマやカモシカなどもやってきますが、なぜかガーデンを荒らすことはなく、花を植えたことで動物たちの楽園ができあがったようです。

終活ガーデンで黙々と作業する遠藤さん

今までの日々の作業の最大のご褒美は、たくさんの花友達ができたこと、その仲間と花の町づくりができたこと。「その活動を通して築いた深い絆は、なによりの財産」と感謝しつつ、今は朝から夕方まで休みなく、ひとり草取りの日々を送る遠藤さん。誰もいない山の麓での草取り、花育ては、これまで味わったことのない贅沢な時間に違いありません。そして、時折訪ねてくる仲間の皆さんとお茶したりする、ゆったりとした流れの中で生きている幸せを感じるそうです。

日本でも人気の高いアメリカのガーデナー、ターシャ・チューダーさんは、57歳からガーデンを始めて92歳で亡くなりましたが、そのガーデンは孫に受け継がれました。規模こそ違え、遠藤さんのガーデンがこれからどう華めいていくか、終活から始まる物語に目が離せません。

<遠藤さん流> 荒れた土壌をEMで豊かにするポイント

● その土地にあるものを利用する
  • 不要な木は伐採して、花壇の柵やイスに。
  • 小枝は無煙炭化器で炭にする。燃やした後にEM活性液をかけ、土壌改良に使用。
  • 木くずは、土の乾燥を防ぐための被覆材として利用。
  • 草は抜いて土の上に被覆する。微生物をはじめ、昆虫などの住処になり、生物の循環の効果があるので外に持ち出さないこと。

 

● 土づくりにはEMをたっぷり使う
  • 土作りには、貝殻石灰、有機たい肥、塩(1坪あたり50g)、EM活性液を使用。
  • 伐採して炭にした小枝は、EM活性液をたっぷりかけて消火し、土に漉き込む。

 

● 苗の準備は最後に

ガーデンを計画するとき、花の苗を選ぶことから始めたくなりますが、そこはぐっと我慢。
まずは、ガーデン全体の配置を考えましょう。最初にガーデンの中を歩くための歩道を確保します。
それから、季節ごとの花の咲き方をイメージして、どこに何を植えるか全体の配置を決めてから、苗を用意することをおすすめします。

入口付近から見たガーデン全体。花が咲いたときを想像して植物を配置する