新・夢に生きる | 比嘉照夫

第207回 国全体にEMが定着してきたペルー

1995年に始まった、中米コスタリカにあるアース大学(EARTH大学)と株式会社EM研究機構(EMRO)のEM普及プロジェクトは30年を経過しました。
【中南米の農業の振興には、強い使命感を持った先端的技術者の養成と定着が不可欠である】というアース大学の校是と、EM研究機構が推進する『地球を救う大変革』という目標とが合致し、両者の連携による成果が着々と現実化しています。
EM研究機構はこのプロジェクトに対し、20年以上にわたって客員教授を派遣し、大学内に多様なEM活用プログラムをカリキュラムとして組み込み、継続的に支援してきました。
この仕組みは確固たるものとして次世代へと受け継がれはじめており、当初掲げた目標の実現が着実に進んでいます。

すべての始まりは、中米の農業大学でした

アース大学は、中南米の農業振興を目的に設立された私立農業大学です。卒業生は原則として公務員にはならず、一次産業の現場に立つことが求められます。持続可能な農業を中心に教育が行われていますが、EMが導入されるまでは有機農業が中心となっていました。

当初、EM技術に対して大学内の理解は限定的でしたが、コスタリカの主力輸出作物であるバナナ栽培において、病害虫や残渣対策で成果が出たことで、評価が大きく変わりました。その後、EM技術に精通した卒業生が中南米各地に広がり、地域の農業の現場で活躍しています。(出典:「新・夢に生きる 第17回中米EMフェスタ│比嘉照夫名桜大学教授」)

<左>アース大学のバナナ園 、<中央・右>アース大学のパイナップル園(出典:「新・夢に生きる 第17回中米EMフェスタ│比嘉照夫名桜大学教授」

EMが“希望”になったペルーの高地

2008年、ペルー北部の標高3,000メートルを超えるワラス地区にて、アース大学の卒業生夫婦が中心となり、EMを活用した貧困農家の自立支援が行われていました。家庭から出る有機廃棄物をEMで処理し、農業、環境、健康の問題を同時に解決するという取り組みは、地域で高く評価されていました。この活動は、農業省傘下の貧困農家支援事業団との連携に発展し、すでに全国で40万世帯がEMを活用しているという規模にまで広がりました。また、ペルーの名門・国立ラ・モリーナ農科大学でもEMに関する講演が行われ、学術界や政策関係者の間でもEMへの関心が高まっていきました。

<左>ペルーのワラス農業大学で講演を開催、<中央>ペルー北部のワラス地区の畑、<右>ワラスの農家の方たちと比嘉教授
<左>ペルーのワラス農業大学で講演を開催、<中央>ペルー北部のワラス地区の畑、<右>ワラスの農家の方たちと比嘉教授 (出典:「新・夢に生きる 第17回中米EMフェスタ│比嘉照夫名桜大学教授」


酪農と作物がつながる「循環」のしくみ


2012年からは、ペルー中部ウアラル県にあるT.A. SAYURI農場で、酪農と作物生産を組み合わせた循環型農業のモデルが始まりました。この農場では、EM活性液やBIOL(自家製液肥)を活用して、トウモロコシや綿花の栽培、乳牛の健康維持、堆肥の生産を一体的に行っています。その結果、化学肥料を一切使用せずに安定した収穫を実現し、乳房炎の罹患率も10%から3%にまで低下。コスト削減や品質向上といった成果も明らかになり、EMの実用性を証明する具体的な事例となりました。(出典:「持続可能なEM循環型酪農|EM GROUP JAPAN」

BIOL(自家製EM液肥)
EMで処理した堆肥を用いたミミズ堆肥(バーミコンポスト)も、トウモロコシ栽培に活用されています

トマト農家の挑戦が、世界に届いた

2023年には、EM技術を活用したトマト栽培に関するプロジェクトが、国連食糧農業機関(FAO)主催のコンペティションで表彰されました。このプロジェクトでは、ペルーの農家がEMによって劣化土壌を再生し、水資源の持続可能な管理を行いながら、トマトの安定生産を実現しました。提案者であるBIOEM S.A.C.のレジェス・ライネス氏は、ペルーだけでなくブラジルやチリなどの事例も共有し、ラテンアメリカ全体における持続可能な農業の方向性を示しました。この受賞によって、EM技術は国際的にも注目されるようになりました。
以下は、ペルーのトマト農家によるEM活用プロジェクトがFAOに認められた背景と意義を伝える、AGROPERU Informaの記事の和訳要約です。

出典:AGROPERU Informa No.46  https://www.agroperu.pe/agroperu-informa-edicion-n-46/ 「EM®テクノロジーはFAOの世界的な競争で際立っています」

<AGROPERU Informaの記事 要約和訳>

国際連合食糧農業機関(FAO)世界コンペティションでEM技術が注目される。BIOEM S.A.C.のプロジェクトを含むペルーの9つのプロジェクトがFAO主催の世界コンペティションにおいて表彰されました。
2023年、国連食糧農業機関(FAO)が主催した「土壌と水の持続可能な管理に向けた優良事例」世界コンペティションにおいて、全体で32の受賞プロジェクトのなかに、ペルーから9つのプロジェクトが選ばれました。そのなかの一つが、BIOEM S.A.C.の技術開発マネージャーのフランシス・レジェス・ライネス氏が提案した「EM技術を活用した南米のトマト農家における劣化土壌の再生に向けた持続可能な対策」というプロジェクトです。
このプロジェクトの目的は、土壌の健全性や水資源の総合管理に焦点を当てながら、持続可能な生産システムを促進し、食料安全保障を確保することにあります。
レジェス・ライネス氏のプロジェクトは、劣化した土壌の再生に特化しており、特にトマト栽培の持続可能な管理に重点を置いて、ブラジル、チリ、パラグアイ、ペルーの農家の経験と成果を共有しています。
このEM技術活用プロジェクトの受賞により、FAOによって内容が体系化・編集・記録され、世界中に広く普及される出版物にとまとめられる予定です。
また、この成果は、劣化土壌の再生に役立つ革新的なEM技術の重要性と、自然資源の持続可能な管理や食料安全保障を進めるうえでのラテンアメリカの可能性を示しています。
このコンペティションには88件のプロジェクトが応募し、11の審査機関による厳正な審査が行われました。今回の受賞は、持続可能で責任ある農業を目指す参加者の強い姿勢を示しています。
「プロバイオティクスの活用は、再生型農業の未来を担うものです。環境には、劣化した土壌を再生する可能性を秘めた微生物が何百万と存在しています」とレジェス・ライネス氏は強調しました。

 

いま、ペルーの農業にEMが息づいています

現在のペルーでは、ペルー農業大学をはじめとする教育・研究機関や、多くの農業関連機関がEMの活用を積極的に進めています。アース大学との長年の連携を背景に、農家の支援から酪農や土壌改良まで、EM技術は実用段階を超えて制度や教育に定着しつつあります。 ペルーでのEMを核とした取り組みは、一次産業を起点に食糧・健康・環境の善循環を生み出す新たな社会モデルとして形を成しつつあります。

人と土をつなぐ、静かな変革

一つの技術が、現場に根づき、制度に定着し、人々の暮らしを支える力になるまでには、時間と信頼の積み重ねが必要です。ペルーでのEMの歩みは、まさにそうした静かで確かな変化の積み重ねそのものだといえるでしょう。農業を基盤とした善循環の社会モデルは、私たちがこれからの持続可能な未来を考える上での、大きなヒントを与えてくれます。


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ひが・てるお/1941年沖縄県生まれ。EMの開発者。琉球大学名誉教授。国際EM技術センター長。アジア・太平洋自然農業ネットワーク会長、<公財>自然農法国際研究開発センター評議員、<公財>日本花の会評議員、NPO法人地球環境・共生ネットワーク理事長、農水省・国土交通省提唱「全国花のまちづくりコンクール」審査委員長<平成3年~平成28年>。著書に「新・地球を救う大変革」「地球を救う大変革①②③」「甦る未来」<サンマーク出版>、「EM医学革命」「新世紀EM環境革命」<綜合ユニコム>、「微生物の農業利用と環境保全」<農文協>、「愛と微生物のすべて」<ヒカルランド>、「シントロピーの法則」<地球環境共生ネットワーク>など。2019年8月に最新刊「日本の真髄」<文芸アカデミー>を上梓。2022年、春の勲章・褒章において、瑞宝中綬章を受章。