
全国大会で見えた「市民皆農」というテーマ
「鍬をふるえる消費者~新たなひろがりを目指す~」。
こんな魅力的なタイトルの第52回日本有機農業研究会全国大会ひょうご大会2026が、去る3月14日、兵庫県姫路市の姫路商工会議所で開催されました。
主催は、NPO法人日本有機農業研究会です。同会は、農業を『自然と協働する仕事』と捉え、『一握りの土に宇宙があり、土を育てる視点は欠かせない』として有機農業運動を提唱した一楽照雄(いちらくてるお)氏が設立し、その考えを受け継ぐ団体です。
この日、全国から有機農家や家庭菜園実践者などおよそ420人が集まり、会場は熱気にあふれました。
もしも私たちの村が100人だとしたら、農家はたった1人。
私たちの食べ物を生産してくれる農業者が劇的に減っているという現実の中で、自分たち消費者が生産者になるいわゆる「市民皆農(しみんかいのう)」は、今日的なテーマです。
では、どうやって米や野菜をつくるか。
そのひとつの答えが、兵庫県と市民団体が進めてきた有機農業〈教室〉運動にあり、その成果が、食と農の危機ともいわれる今、注目されています。

市民が学び、市民が教える
有機農業塾の指導にあたっている保田茂(やすだしげる)氏は、神戸大学名誉教授で、NPO法人兵庫農漁村社会研究所理事長です。
保田氏は、農薬問題が次々と明らかになった1971年、「母乳から農薬があってはならない」と設立された「日本有機農業研究会」の副理事に就任し、さらに地元兵庫県で兵庫有機農業研究会を立ち上げ、1989年から、兵庫県の有機農業に関する調査を県とともに開始しました。
その後、兵庫県では、1992年に県独自の環境創造型農業推進方針を策定。1993年には県独自の有機農産物認定制度を創設し、2001年には「ひょうご安心ブランド農産物認定制度」を創設するなど、全国に先がけて有機農業に関する政策を次々と起ち上げていきます。
こうした中、コウノトリが住める環境を取り戻すため、農薬や化学肥料に頼りすぎない田んぼづくりや、生きものを育む農法が広がっていきました。その結果、コウノトリの野生復帰につながる取り組みとして注目され、この成功事例は全国的にも大きな話題となりました。
その後、NPO法人兵庫農漁村社会研究所の理事長となった保田氏は、コウノトリの復活事業に関わった元県職員の西村いつきさんとともに、自ら鍬をふるう市民を育てようと有機農業塾を始めました。

「母乳汚染をしない、次の命を守る、そういう食べ物をつくる」という目標を掲げ、農薬・化学肥料を使用せず、保田ぼかし(乳酸発酵資材)※で土壌を豊かにする農法と、大自然に則した生き方を通して、有機農業の社会的意義を伝えています。
※保田ぼかし:保田茂氏らが有機農業教室で紹介している発酵資材。

活躍する受講生
受講生は、子育て世代をはじめ、介護施設や保育園の職員などさまざまです。女性が7~8割を占める一方で、年齢層は小学生から80歳までと幅広く、年間12教室でおよそ800人が学んでいます。年間10~12回の座学と実習を行い、これまでの15年間で延べ8,000人の「耕す人材」を育成してきました。
- 宍粟有機農業教室 井上由岐子(いのうえゆきこ)さん(宍粟市)
「めぐる暮らし」(五感で楽しむ食と農・全10回)、「やさい日和」(年5回の日曜マルシェ)、「けんたろう農園」(田植え・稲刈り・もちつき体験)、「おひさまかまど」(子どもが台所仕事をする子ども食堂)、「はは有機」(米と野菜の生産・農業体験)など、さまざまなイベントを企画。
地元小学校の環境学習では、大豆栽培から味噌づくりまで指導にあたっています。
「暮らしの中に農業があることの豊かさ、ご飯を食べることの大切さなど、大地とつながる農と食のことを伝えていきたい」と抱負を述べていました。
関連:宍粟有機農業塾
- 陽だまり農園 竹内眞弓(たけうちまゆみ)さん(神戸市西区)
兵庫楽農生活センターの有機農業塾を受講し、自身が勤務する介護施設の入居者の食事の食材を自給自足したいという経営者とともに、お米づくりから始めました。
2024年からは神戸ネクストファーマー認証機関となり、「天地有機お米のがっこう」を開校。続いて、野菜づくりに興味のある人たちのために、5m畝のプチ貸農園を開設しました。
「耕作放棄地はたくさんあり、土地が私のところに集まってくる。なによりも、鍬で“乗せる、寄せる”の作業が大好き」と笑顔で語ります。
関連:陽だまり農園
「農業の指導者を増やして、自分で食べ物を育てる市民をつくることが、自給率の低い日本が火急にするべきことだ」という保田氏の考えが、こうして大きな花を咲かせています。
スマホを鍬に持ち替えて
こうした有機農業教室の広がりは、スマホで情報を得るだけでなく、実際に鍬を持って土に触れる市民を各地に生み出しています。
小田原から姫路まで、1年間、保田氏が指導する有機農業塾に通った根守良一(ねもりりょういち)さんも、同じ考え方をもとに、小田原で有機農業塾<小田原有機農業塾>を始めています。最近は、米づくりをしたいというママたちの応募が多く、保田氏は「それはすばらしいことだ。子育てが終わっても、食と農への意識が継続されるといい。社会はそうやって変わっていく」と彼女たちを励まします。
子育て中に、食べ物が体をつくることに気がつくか、気がつかないかでは、そこから先の人生の展開が変わる可能性もあります。
気がついた若い世代、ことに台所に立って毎日の食事をつくる多くの女性たちの気づきが大きいのでしょうが、このことは男女を問いません。スマホを鍬に持ち替えて、まずは自分、そして家族の健康を手に入れる。地域の土を耕すことから、食と農の社会的意義へと関心が広がり、一人一人の実践がこの運動の大きな力になっていくのではないでしょうか。
(写真:平島芳香、文責:小野田明子)
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