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EM生ごみ堆肥で『元気野菜づくり』
「EMは効くまで使え」―その効かせ方のコツ
NPO法人「大地といのちの会」理事長 吉田俊道さん

NPO法人「大地といのちの会」理事長 吉田俊道さん EM生ごみ堆肥で『元気野菜づくり』 「EMは効くまで使え」―その効かせ方のコツ農薬を使わずに野菜をつくるにはどうすればいいか、何か良い方法がないのか――
農業普及員の時代から、全国各地を歩いて探しまわってきたという吉田俊道さん。その過程で、ごみ問題と有機野菜、この2つを絡めて考えついたのが『生ごみリサイクル野菜』です。さまざまな方法を実践されていますが、中でもEMを使った方法についてお伺いしました。

――これまでどんな農法を試されましたか?

吉田:基本的な有機農業はもちろん、無肥料栽培、炭素循環農法、緑肥栽培など、いろいろ取り組みましたが、どれにも長所と欠点があって、何々農法が一番いい、とかはないんですね。それぞれの良さをよくわかってやらないと上手くいかない。だから、お互いを否定するのではなく、よいところの共通項を見つける姿勢でやってきました。すべての有機農法に共通して言えるのは、「微生物をうまく活かすことで野菜は元気に育つ」ということでした。

――『菌ちゃん野菜』とは?

吉田:草や木が微生物で分解されてできたものを『腐植』といいますが、この腐植こそさまざまな微量ミネラルを生命のバランス通りに含み、野菜に最高のパワーを与えてくれます。微生物に繋がっている野菜こそ、健康な野菜なのです。だから、私は、微生物に愛情を込めて『菌ちゃん野菜』と呼んでいます。『生ごみリサイクル菌ちゃん野菜』は、ごみ問題と有機農業を絡めて考えて名づけましたが、生ごみが野菜になって還ってくるという共生と循環の自然のしくみを子どもたちは、すんなりと受け入れてくれています。

――子どもたちが行う生ごみリサイクルの方法は?

吉田:新鮮な生ごみを細かくして、EMボカシとよく混ぜて、浅く土と混ぜ、3日目に再度混ぜる。この方式だと生ごみは1週間でほとんど消えるし、土は暖かいし、地表部には糸状菌が見えるので、子どもたちは感動するんです。土の微生物が生ごみを食べていることを実感できるわけですね。その上、有機農家が驚くほどの元気な野菜が育つのです。このやり方は、全国に広がりつつあり、福岡県久留米市では、9割近くの保育園に普及しています。

――EMはいつごろから?

吉田:もう20年以上前かな?当時、密閉処理容器を使った方法が一般的でしたが、それだと容器の中で腐敗してしまう例も多かったです。だからと言って、保育園のようにひんぱんに混ぜる方法は大面積で行う農業としては困難なので、自分の畑ではあまり実践できませんでした。ところが今年めちゃくちゃ上手くいったのです。よく『EMは効くまで使え』と言われますが、よりうまく効かせる方法、つまり嫌気微生物の扱い方、日和見菌を善玉菌に引き寄せて、上手に土着菌までも発酵させていくやり方があったのです。

――吉田さんのEMの使い方は?

吉田:時々佐世保市の青果市場に出かけては、もらった野菜くずをEMボカシと混ぜて密封します。大きすぎるものや、長くてトラクターの爪に絡まりそうなものだけ十字なたで小さくして、混ぜたものを100Lタンクに入れてきっちり蓋を閉めます。何回か入れると満タンになるので、その後は1ヶ月以上絶対に開けないで密封しておきます。そうすると、食べても良いくらいのEM生ごみ漬け物ができます。浅漬け状態だとあとで腐敗に戻る可能性があるので、最低1か月以上は寝かせます。夏場は腐敗防止に塩も足します。だから本当に漬け物なのです。そして、実際に食べてみて、おなかを壊さないことを確認してから畑に入れるんです。
「菌ちゃんよろしくね!菌ちゃんがんばってね!」
こう気持ちを込めると、菌が頑張ってくれるんです。発酵が進むとタンクが膨れて、蓋を開けると「プツプツ・・・」というガスのでる音がいつまでも続いて、元気な微生物の声を実感できます。ほんとうにありがたい。このEM生ごみ漬物に使用するEMボカシは、夏場に大量に作りおきしています。佐世保市の青果市場に出かけては、もらった野菜くずをEMボカシと混ぜて密封します。

――完成したEM生ごみ漬物はどのような効果を発揮しますか?

吉田: EM生ごみ漬物を入れると、土の中は微好気状態になり、1か月後には生ごみはほとんど消えています。おいしいと思えるほどのEM生ごみ漬物、つまり発酵微生物の精鋭部隊を畑に入れることで、土の中は日和見菌を含めて、完璧な発酵状態になったのだと思います。パンが膨らむのと同じことが土の中で起こり、土がフカフカになっているのです。

――実際の作付けにはどのように使用されているか教えてください。

吉田:1平方メートル当たり10kgのEM生ごみ漬け物を、土の上に薄く広げて、深く耕し、平らにならしてから黒マルチをかけて、周りを土で押さえます。1か月以上経ってからマルチのまま穴を開けて苗を植えます。あとは定期的に活性液を混ぜてかん水チューブからかん水しただけです。ナスやピーマンなど生育期間の長い夏野菜でも追肥は不要でした。EM生ごみ漬物を入れると、土の中は微好気状態になり、1か月後には生ごみはほとんど消えています。

――2017年のEMでの成果はいかがでしたか?

吉田:今年は、長雨の後干ばつが多くて大変だったんです。別の農法のピーマンは立ち枯れした株が1割くらい発生しました。でも、EMでやったところのピーマンは完璧なんですよ。「あ、こういうことか」って思いました。日和見菌の99.99%を発酵型にもっていけたら、とんでもないことがおきる。比嘉教授や多くのEM先進農家が実現している『限界突破』がうちの畑でもかなう気がしてきました。きゅうりが2ヶ月経ってもまだもりもり獲れ続けられて、今までの自分の有機農法のレベルを超えましたね。全然追肥しないのにピーマンが秋まで良く育ったこともびっくりでした。ポイントは、菌だけ入れるんじゃなくて、菌の食べ物と一緒に入れること。完璧に漬物にしてから、自分が食べられるくらいのEM生ごみ漬物を入れること。そして菌に心を寄せることだと思いました。来年は生ごみをもっと集めて、さらに面積を広げていこうと張り切っています。実際の作付けにはどのように使用されているか教えてください。

――EMユーザーにメッセージをお願いします。

吉田:まずはEM菌を好きかどうかが意外と重要な気がしてきてるんです。EMが好きかどうかで、結果が違ってくるようなんです。そして『生ごみを処理する』という気持ちではなく『生ごみを自分が食べる』つもりでEM生ごみ漬物を作ってみてください。すると、やり方も気持ちも全て変わります。自分が食べようと思ったら、汚い三角コーナーのものを入れようと思わなくなるでしょ。そしたら、食べ残しもきれいに入れるようになるし、切ったものをまな板から直接入れるようになりますよね。そしたら、ホントに食べていいわけなんです。おいしいんだから。私もいい野菜ができたから、ぜひ、みなさんにも試してみていただきたいです。

文責:小野田


PROFILE よしだとしみち/NPO法人大地といのちの会理事長。菌ちゃんふぁーむ園主。長崎県環境アドバイサー。1959年、長崎市生まれ。九州大学農学部大学院修士課程修了後、長崎県庁の農業改良普及員に。1996年、県庁を退職し、有機農家として新規参入。1999年、佐世保市を拠点に「大地といのちの会」を結成し、九州を拠点に生ごみリサイクル元気野菜づくりと元気人間づくりの旋風を巻き起こす。2007年、同会が総務大臣表彰(地域振興部門)受賞。 2009年、食育推進ボランティア表彰(内閣府特命担当大臣表彰)。著書に「いのち輝く元気野菜のひみつ」「生ごみ先生のおいしい食育」「完全版 生ごみ先生が教える「元気野菜づくり」超入門」などがある。