新・夢に生きる | 比嘉照夫

第211回 ベリーズにおけるEMによる製糖工場廃水処理

前回でも述べたように、EARTH大学の卒業生による中南米のEM普及は着々と進んでいます。ベリーズにおいても、その活動は同じレベルで進んでいますが、今回は浄化が極めて困難な製糖工場の排水処理の例を紹介します。

製糖工場の廃水には、大量の酪酸菌が濃縮的な汚染を繰り返すため、普通の廃水浄化技術は全く通用せず、多くの池を作り、年単位で自然浄化する方法が取られています。

その際に発生する悪臭は、数㎞にも及び、下流の汚染や健康問題等々を含め、様々な衛生問題や生態系の破壊を引き起こしています。

EMはこのすべての問題の解決に対応できるようになっており、ブラジル、アルゼンチン、コロンビア等にも広がっています。

 

EMで廃水処理の「におい・にごり・費用」を同時に軽くする(ベリーズ・製糖工場)

BSIという企業

Belize Sugar Industries Limited(BSI/ベリーズ・シュガー・インダストリーズ)は1963年設立、1967年より砂糖製品を製造してきた同国を代表する製糖企業です。
ベリーズ北部で唯一の製糖工場を運営し、プランテーション白糖・ブラウンシュガー・糖蜜を生産。年間のサトウキビ圧搾能力は約130万トン、国内5,000名超の独立系農家からも原料を受け入れています。
さらに、搾りかす(バガス)を燃料にしたコージェネで再生可能エネルギーを発電し、自社利用に加えて国の送電網へも供給(国全体需要の約15%に相当)。
地域の農業とエネルギーを支えるプラットフォーム的企業です。

 

廃水のにおい・にごり・処理の手間が増える理由

製糖の現場で悩みのタネになるのが、加工工程で出る廃水です。

製糖工程から出る廃水には糖分や繊維などの有機物が多く含まれ、分解のバランスが崩れると強い悪臭やにごりが発生します。
BSIでも、廃水処理池の硫化水素やアンモニアなどの臭気が課題となっておりり、近隣河川に生息している水生生物や魚などへの影響も懸念されました。
また、廃水の水質指標、CODとBODにも問題を抱えていました。

BODとCODは、水の汚れを表す指標です。
CODは、化学的酸素要求量(Chemical Oxygen Demand)。水の汚れを“薬で化学的に分解するのに必要な酸素”の量。
BODは、生物化学的酸素要求量(Biochemical Oxygen Demand。水の汚れを“微生物が分解するときに使う酸素”の量。
どちらも数値が大きいほど汚れている状態です。

 

EMの活用~設備はそのまま、運用を“発酵側”に寄せる

そこで選ばれたのが、微生物の働きをいかすEM。におい・水質・コストの“同時解決”に踏み出した実践です。

BSIではEM・1を現場で活性化してEM活性液を作り、廃水系統に週に一度のペースで投入しました。
既存設備はそのまま、投入ポイントと頻度を設計して運用を切り替えるアプローチです。これにより、分解の主役を“腐敗寄り”から“発酵寄り”へとシフトさせ、においの発生源と水質の底上げを同時にねらいました。

EM活性液のタンク

 

結果~においの抑制・水質の改善・コストの圧縮

EMの導入から1年後、悪臭の制御やハエの減少が認められ、水質指標(COD/BOD)はいずれも改善しました。

また、エアレーションにより送風機の保守維持費を削減したことが、排水処理池の管理にかかる人件費の削減にもつながり、総コストは大きく低減しました。

エアレーションとは、空気を細かな泡として送り込み、酸素を与えながら“泡の浮力”で水をかき混ぜる方法で、浄水場や下水処理場などでも広く用いられています。

通常は、水中の好気性微生物の働きを助ける目的で使われますが、BSIでは『汚水の攪拌』を目的として活用。
空気で混ぜるこの方法は池の条件に対して効率がよく、EMにより腐敗傾向が抑えられたこととも相まって電力量の抑制につながったとしています。

下の「コスト管理比較表(通貨単位:ベリーズ$)」が示す通り、プロジェクト全体で約50.6%の削減効果が確認されています。

【 Wastewater Cost Comparison (BSI) / 廃水処理コスト比較 】

※ Currency: Belize Dollar (Bze $) / 通貨はベリーズ・ドル(Bze $)

Components
<項目>
Crop Season Expenditures at Treatment Ponds
<処理池における作期コスト>
Projected Savings
<推定削減>
2008年 2009年 2009年
BZD 日本円
(目安)
BZD 日本円
(目安)
Aerator maintenance
<送風機(エアレーター)保守>
36,685.00 2,751,375円 100%
Labour
<人件費>
30,142.00 2,260,650円 100%
Energy use
<エネルギー費(電力等)>
72,273.12 5,420,484円 100%
Other
<その他>
7,900.00 592,500円 20,504.58 1,537,844円 +12,604.58
EM
<EM関連費>
48,250.71 3,618,803円 +48,250.71
Total Cost / Project Savings
<総コスト/プロジェクト削減率>
139,100.12 10,432,509円 68,755.29 5,156,647円 50.6%

※円換算は目安です。1 BZD = 75 円で算出(ベリーズ・ドルは米ドルに 2 BZD = 1 USD でペッグ)。円換算額はUSD/JPYの変動により変わります。端数は四捨五入。

 

EM使用前の廃水処理池
EM使用前の廃水処理池
EMを使用して5ヵ月経過後の廃水処理池
EM使用後の廃水処理池

(出典:「廃水処理における大幅なコスト削減に成功|EM GROUP JAPAN」)
>導入事例の詳細はこちら(EMROサイト)


ひが・てるお/1941年沖縄県生まれ。EMの開発者。琉球大学名誉教授。国際EM技術センター長。アジア・太平洋自然農業ネットワーク会長、<公財>自然農法国際研究開発センター評議員、<公財>日本花の会評議員、NPO法人地球環境・共生ネットワーク理事長、農水省・国土交通省提唱「全国花のまちづくりコンクール」審査委員長<平成3年~平成28年>。著書に「新・地球を救う大変革」「地球を救う大変革①②③」「甦る未来」<サンマーク出版>、「EM医学革命」「新世紀EM環境革命」<綜合ユニコム>、「微生物の農業利用と環境保全」<農文協>、「愛と微生物のすべて」<ヒカルランド>、「シントロピーの法則」<地球環境共生ネットワーク>など。2019年8月に最新刊「日本の真髄」<文芸アカデミー>を上梓。2022年、春の勲章・褒章において、瑞宝中綬章を受章。

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