新・夢に生きる | 比嘉照夫

第218回 発酵のチカラを活用したEM衛生プロジェクト ポルトガルの事例

第218回 発酵のチカラを活用したEM衛生プロジェクト ポルトガルの事例

新・夢に生きる 第218回

前回は、ヨーロッパにEM技術が普及した経緯について説明しました。かなり古い話になりますが、1995年フランスのパリで行われた自然農法とEM技術の国際会議がヨーロッパのEM普及の始まりです。

パリの会議に引き続いて、ポルトガルでもブラジルの事例発表を中心に分科会が行われ、様々な分野でのEM技術の活用が始まりました。

今回紹介するのは、日本でも多くの地域で活用されているフェスティバルに伴い発生する生ごみや様々な廃棄物の悪臭処理や汚水処理の応用事例です。

EMを使い続けると、環境全体の微生物相が腐敗型(有害発酵)から発酵合成型(有用発酵)に変わります。汚水処理も基本的には同じ原理ですが、水のクラスターが小さくなるように、常にEMの密度を高める管理をする必要があります。

以下の成果報告は、これまでのEM技術を更に進化させており、前回紹介したイギリスのモンマスシャーの小学校の成果を踏まえ、次のステップが期待されます。

発酵のチカラを活用したEM衛生プロジェクト ~夏フェス in ポルトガル~

出典:https://emro.co.jp/case/20260415/

ブームフェスティバル会場(2012年)
<出典:Dance Temple-Boom 2012 by Serialslb, CC BY-SA 3.0

お祭りやイベントのあとには、いつも大量のゴミが残ります。それを捨てずに資源へ戻せないか。ポルトガルの夏フェスは、その答えをEMに見つけました。

環境に配慮したこのEM衛生プロジェクトは、ポルトガルで開かれる2つのサマーフェスティバル「トラディダンサス(Tradidanças)」と「ブームフェスティバル(Boom festival)」で導入されています。現地のEM販売代理店であるMicrovida社が、2012年からフェスティバルの主催者と手を組み、環境にやさしい循環のしくみにEM技術を役立ててきました。ねらいは、トイレの臭い対策だけではありません。仮設トイレから出る排せつ物や、屋台から出る生ごみを堆肥に変え、資源を無駄なく回していくことにあります。

野外フェスがかかえる、ゴミと臭いの問題

自然の中で開かれるフェスティバルには、独特の難しさがあります。短い期間に、一気に大勢の人が集まる。そのぶん、環境にかかる負担も大きくなりがちです。

まず、ゴミの量。トラディダンサスは5日間で1日あたり最大4,000人、ブームフェスティバルは1週間で約40,000人が集まります。これだけの人が飲み食いし、トイレを使えば、生ごみも排せつ物も排水も、短い時間でどんどんたまっていきます。

やっかいなのが臭いです。夏場、生ごみを一日置いておくと、すぐに臭ってきます。あれが何千人、何万人という規模で起きると考えると、想像がつくのではないでしょうか。仮設トイレでいちばん心配されるのもこの臭いで、気温が高いほど強くなり、雑菌やハエなどの衛生害虫も増えていきます。暑さは腐敗も早めるので、生ごみや排せつ物は、できるだけ早くきちんと処理しないと追いつきません。

多くのフェスでは薬剤に頼った処理が手軽な方法ですが、そうなると今度は、環境への負担が懸念されます。

そこで注目されたのが、EMを活用した衛生管理です。臭いや衛生面の課題に向き合いながら、生ゴミや排せつ物を資源として循環させる取り組みが始まりました。

森の中で開かれる「トラディダンサス」での取り組み

トラディダンサスは、ポルトガル中部の森の中(サン・ペドロ・ド・スル近郊のカルヴァリャイス)で開かれる、伝統・ダンス・音楽、そして自然をテーマにしたフェスティバルです。毎年7月下旬から8月上旬にかけて5日間ひらかれ、1日におよそ4,000人が集まります。伝統的なフォークダンスやコンサートのほか、自然散策や工芸のワークショップも楽しめる催しです。

Microvida社がこのフェスと組み始めたのは2018年から。5日間で出る生ごみや排泄物などは、軽トラック20台分以上にもなります。同社はそれを処理するために、会場にEMを活用したリサイクルシステムを一から築きました。18基のコンポストトイレ、20基の男性用ドライ小便器、そしてレストランから出る生ごみの堆肥化に、EM活性液とEMボカシを使っています。できあがった堆肥は、そのまま野菜の不耕起栽培に活かされます。

トラディダンサスでのEM活用
(左から)コンポストトイレ(2024年)/藁でできた男性用ドライ・コンポスト小便器(2024年)/コンポストトイレのタンクへEM活性液とEMボカシを投入(2019年)
生ゴミの堆肥化と野菜づくり
(左から)生ごみ収集場所(2023年)/昨年のシステムで生産されたEMコンポストを活用し、野菜を不耕起栽培/EMコンポストを活用して栽培した野菜

4万人が集まる「ブームフェスティバル」

ブームフェスティバルは、2年に一度ひらかれる、サイケデリックな音楽とアートの大規模な野外フェスです。約1週間の会期に、およそ4万人が訪れます。会場は首都リスボンから約250km離れた、ポルトガル中部イダーニャ・ア・ノヴァの湖のほとり。環境への配慮でも知られ、これまでにいくつもの賞を受けてきました。ここでもMicrovida社が2012年から主催者と組み、衛生管理にEM技術を取り入れています。

500基のコンポストトイレ

ブームフェスティバルが水も化学薬品も使わない「コンポストトイレ」を導入したのは、2006年のこと。大規模イベントでも持続可能な衛生管理ができるモデルとして、少しずつ育ててきました。ねらいは、人の排せつ物をゴミとして捨てるのではなく、資源として再利用すること。2012年からは、この取り組みにEM活性液とEMボカシを活用することも加わりました。

ブームフェスティバルのコンポストトイレ
(左から)コンポストトイレ(2012年)/コンポストトイレ(2012年)/EM散布中のEMプロジェクトチーム

 

生ごみを堆肥に

屋台のレストランから出る生ごみは、炭素を多く含む有機物と混ぜ、10日間かけてコンポストで管理し、EMの力で堆肥へと変えていきます。分解が早く進むと、悪臭やハエなどの衛生害虫の発生も抑えられ、参加者が快適に過ごせる会場が保たれるのです。

生ゴミ堆肥化
(左から)生ごみのEM処理/フェスティバル中毎日EM処理される/6基のコンポスター

 

排水を、また使う

会場では、排水を受ける溜め池が設けられています。2023年からは、貴重な水を守るために、シャワーから流れ出た700万リットルの排水をEMで浄化し、灌漑などに再利用できるようになりました。

(左から)EM活性液/排水処理用の溜め池

 

EMを活用して実際にどうだったのか

EMを使うことで、大量の生ごみや排せつ物を、安全で質の高い堆肥へと生まれ変わらせることができました。数字と反応の両面で、はっきりとした手応えが出ています。

まず衛生面。設営からイベント終了までの約10日間、気になる臭いは大きく和らぎ、ハエなどの衛生害虫も目に見えて減りました。また、シャワーの排水をEMで浄化した水を専門機関で検査したところ、再利用可能な資源として活用できる水質であることが確認されました。さらに、できあがった堆肥も検査にかけられ、病原菌がなく、農業に使える高品質なものだと証明されました。

水の節約も大きな成果です。EMで排水を浄化したことにより、トラディダンサスで約50万リットル、ブームフェスティバルではおよそ1,900万リットルもの水を節約することができました。資源の循環という面でも、ブームフェスティバルは約10㎥の堆肥をつくって会場の敷地に還し、トラディダンサスではその堆肥で野菜を育てています。出たものを捨てずに、また土へ戻す。この輪がきちんと回っているわけです。

参加者の評価も上々でした。コンポストトイレは「臭いが少ない」「環境にいい取り組みに自分も加われる」と好評で、満足度は高かったといいます。運営する側にとっても、ゴミの運搬費が減り、肥料を自前でつくれるようになるのは、大きなメリットとなりました。

Microvida社は今、さらに先を見ています。ゴミが一気に増える時期でも安定して回せるよう、EMを自動で散布するしくみの導入を検討しているところです。

トラディダンサスにおいてのコンポストトイレ循環サイクル
トラディダンサスにおいてのコンポストトイレ循環サイクル
ブームフェスティバルにおける環境プログラム
ブームフェスティバルにおける環境プログラム
EM団子ワークショップとEM販売代理店
(左から)EM団子ワークショップも開催(2023年)/EM団子ワークショップ(2025年)/ポルトガルのEM販売代理店様

 


ひが・てるお/1941年沖縄県生まれ。EMの開発者。琉球大学名誉教授。国際EM技術センター長。アジア・太平洋自然農業ネットワーク会長、<公財>自然農法国際研究開発センター評議員、<公財>日本花の会評議員、NPO法人地球環境・共生ネットワーク理事長、農水省・国土交通省提唱「全国花のまちづくりコンクール」審査委員長<平成3年~平成28年>。著書に「新・地球を救う大変革」「地球を救う大変革①②③」「甦る未来」<サンマーク出版>、「EM医学革命」「新世紀EM環境革命」<綜合ユニコム>、「微生物の農業利用と環境保全」<農文協>、「愛と微生物のすべて」<ヒカルランド>、「シントロピーの法則」<地球環境共生ネットワーク>など。2019年8月に最新刊「日本の真髄」<文芸アカデミー>を上梓。2022年、春の勲章・褒章において、瑞宝中綬章を受章。

>>