連載

第4回 土と生ごみと菌ちゃんの関係

土に生ごみを混ぜることを、「おなかが空いた菌ちゃんに食べものをあげようね」という表現で私が言うようになったのは、その体験をした幼児が家でお母さんに「あのね、今日ね、食べものを土にあげたよ!」と報告したのが始まりです。

親しみを込めて「菌ちゃん」

すべての生物を支えている微生物は、生物の死の局面にも、新しい命を産み出す場面にも現れます。地球の命の循環のために、血液の流れで言うと心臓の役割を果たしているようです。映画「もののけ姫」の中に登場する、生き物の生と死を司る「しし神」とは微生物のことでしょう。私たちは、この「しし神」様を、親しみをこめて「菌ちゃん」と呼んでいます。この菌ちゃんのことを想いながら、生ごみを土に帰してあげるのです。
例えば、生ごみを小さく切ったりつぶしたりするのも理由があるわけで、このように説明します。
「あのね、菌ちゃんの大きさは、1ミリの小さい物を千回も切ったようなもので、本当に小さいんだよ」
「このスイカの皮の厚みは1センチくらいだけど、もし君が菌ちゃんでこの皮を食べるとしたら、皮の内側から外側までがどれくらい遠くに見えると思う?」
「実はね、10キロくらい遠いんだよ。君はここから○○町くらいまである、めちゃくちゃ大きなケーキを食べたことある?食べられないよね」
「よし、菌ちゃんが食べやすいように小さく切ってあげよう」
菌ちゃんにとって、生ごみとの間隔が1センチ離れていたら、10キロも歩かなければ生ごみにはたどり着けないのと同じなのです。だから、どこの土の菌ちゃんからもすぐ近くに食べものがあるように、生ごみを土とよ~く混ぜるのです。

白カビと発酵熱

そして約3日目(都合によっては4日目)、シートをめくると子どもたちは感動の声をあげます。「うわ~雪みたい!」土の表面に白カビがびっしり生えているのを見たとき、よく出る言葉です。米ヌカなどをたっぷり入れて、フワッとしかもしっかりと混ぜると、表面だけでなく土の中を掘っても真っ白な白カビがいっぱいです。 「これが菌ちゃんだよ。食べものを食べて、いっぱいに増えて、菌ちゃん同志が手をつないでいる今だから菌ちゃんが見えるんだよ」と言うと、菌ちゃんを素手でさわり、鼻に近づけて見て、ビールのニオイとか味噌のニオイとか言ってくれます。

菌ちゃんの塊を手に、「ミソのニオイがする」と言う子どもたち

「うわっ、熱かあ」
「ホッカイロみたいだね!」
友だちの驚きの声につられて、子どもたちみんなが土に素手を突っ込んでいきます。農家にとっては当たり前の発酵熱。でも先生や子どもたちは、「どうして熱いの?」と驚嘆します。 そんな時は、「生ごみを食べて元気になった菌ちゃんはドンドン子どもを産んで、ぎゅうぎゅう詰めの押しくらまんじゅうになって息をしているんだよ」と説明してください。そして、どうしてこうなったか考えてみます。

まず、大人3人で手をつないで環をつくります。そこに子ども菌ちゃんを2人入れます。
「さあ、君たちが、その畑の中の菌ちゃんだとするよ。菌ちゃんは何日ぶりかのご飯だから、とてもお腹が空いていたんだよね。さあ食べて食べて・・」と食べた真似をします。そして30分経ったとします。「久しぶりに生ごみを食べて元気になった菌ちゃんは、もう大人になって子どもが産めるんだよ」と言って、2人の菌ちゃんの子どもとして別の2人を環の中に入れます。

「4人になったね。さあ4人で生ごみを食べよう。あむあむ・・」。また、30分経ちました。「4人の菌ちゃんは、もう子どもが産めますよ。さあ、また4人入って・・」。
そうやって、環の中に子どもたちを2、4、8、16人と詰め込んでいくと、アッという間に子どもたちでぎゅうぎゅうになってしまいます。土の中もアッという間に、菌ちゃんでぎゅうぎゅう詰めになったことを体感することができるのです。

手を入れると熱い!発酵の仕組みを体感

1gの土に10億以上の菌ちゃん

「土なんか触りたくない!」
「汚い生ごみはどこかに捨てて」。
こんなこと言っていた現代っ子が土に手を入れた時から、伝わる暖かさと共に、土が生き物であることを実感し、私たちを生かしてくれている大自然への感性が目を覚まし始めます。「菌ちゃんが大暴れして、フウフウ息ばしょらした!」とは、土を混ぜた時に出てくる湯気のことです。 「これだけ(1g)の土の中に、菌ちゃんは10億以上、とにかくたくさんたくさんいるんだよ。もし君が、今から1秒に1回、1、2、3と菌ちゃんを数えていったら、やっと数え終えたときは(今10歳の)君は、42歳のおじいちゃんになっているんだよ!」そう説明すると、みんな意味不明な顔をしてびっくりします。
「君たちがもし菌ちゃんみたいにぎゅうぎゅう詰めになって、それでも一生懸命に息をしていたら、どんな気分だろうね?」と聞くと、「苦しい」と応える子がいます。「そうだね、きっと菌ちゃんは空気が無くて苦しいに違いないよね。よ~し、もう一度土を混ぜて空気を入れてあげよう!」 そして、土を混ぜながら、たった3日目なのに生ごみがもう溶けかかっている姿を見て子どもたちは口々にこう言います。
「菌ちゃんって何でも食べて、好き嫌いないね!」
「もう菌ちゃんがこんなに食べちゃった!」
「菌ちゃん元気になあれ!」
生ごみを土に混ぜながら出てくる子どもたちの言葉は実におもしろい。 これでまた、菌ちゃんは元気になってもりもり食べてくれるね。

土の力、菌の力

この3日目の混ぜる作業だけは、手抜きをしないで、十分に、こまごまと丁寧に混ぜ合わせます。そうすると、また元気に発酵、分解していくので、ウジがわく前に生ごみがなくなってしまいます。混ぜ終わったら元通り山をつくってシートを被せます。それからさらに4~7日後、またシートをあけて、混ぜてください。
「あんなにたくさん入れた生ごみがない!」
「菌ちゃんが食べちゃった!」
昔の人なら当たり前のことなのに、先生も子どもも本当にびっくりします。「実は、私が昨日土の中から生ごみをすべて取り出したんだよ」と言ったら信じた人がいました。魚が骨だけになっているのを見て、ネコが食べたに違いないと勘違いした先生もいました。それくらい、感動ものなんです。子どもと一緒にワクワクしながら、すべてが土に帰り、再び生まれる母なる大地の力、菌の力を実感してください。
ここまでの土づくりの段階をしっかり実体験した子どもたちは、植える前から土への感性や生き物へのまなざしが違うのです。野菜を植える時になって、急に「堆肥」と言う知らない物を持ってきてまくのではなく、まずは自分たちの食べ物の残りや運動場に生えている草を土に戻して土を元気にしてあげるのです。ですから、この活動は野菜育てに止まらず、命のつながりが体験できます。全部自分たちの関わってきた生き物から出発しているのです。
各自が家庭から持ってきた生ごみを混ぜながら、「このキャベツの芯は○○ちゃんちのだね」と言ったりします。生ごみを入れて1か月もすると、土から大きな葉が生えていることがあります。これ何だろうと思っている子どもたちに、「誰かがカボチャのワタの所を生ごみとして持ってきただろう?その中の種が自分で生まれたんだよ」と教えると、「これ僕が持ってきたカボチャだ」と大声を上げたりします。誰も世話をしないのに、けなげにも自分の力だけで生まれて育つカボチャを、まるで捨て猫を拾ってきたように、大切に移し替えたりします。
生ごみを入れてから1か月以上経って、少し黒くなって完全に浄化した土に種をまきます。
「元気な菌ちゃんたちは、どんな元気な野菜を育ててくれるかな?」。
これから育ちゆく野菜に興味津々。どんなエピソードが生まれてきたか、詳しくは、次号で。

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