連載

第8回 地球との一体感

元気野菜づくりに使った物は、今にも腐りそうな不要な生ごみです。でも、それこそが菌ちゃんのエサになって、土はきれいになり、とっても元気でおいしい野菜ができるのです。この両者のコントラストに子どもは感激します。

ある小学校で初めて生ごみを土に混ぜた時、子どもたちは、「こんなもので野菜ができても絶対に食べたくない!」と言っていたんです。でも、その場所に植えたキュウリの苗から、初めてキュウリが実り、それを食べた時、目を丸くして驚きました。
 「なに、これ!おいしい!ドレッシングをかけなくともおいしい!」
 「でも、魚の頭とか入れたよね」
この時、子どもたちの頭の中で、汚そうな魚の頭と、おいしいキュウリと、自分がつながったのです。

魚の頭を菌ちゃんが食べやすくなるようにつぶします。菌ちゃんのパワーが増すように
魚の頭を菌ちゃんが食べやすくなるようにつぶします。菌ちゃんのパワーが増すように

清濁一体

そうです。みんなつながっているから、地球上に要らないものなんて無いんです。
私たちはよく、汚いものなんかどこかへ行ってしまえと思ってしまいますが、その汚そうなものこそが、最高にキレイなものとつながっていたのです。反対に、私たち人間はキレイに見えますが、出すのはウンチやおしっこや垢で、汚そうなものばかりです。でも、それらがあるから、菌が元気になり、土が浄化され、元気でキレイな野菜ができるのです。
公教育の場で、すべての子どもたちに体験してもらうための生ごみリサイクルは、絶対に不快なニオイを出さず、清潔に行う必要があります。だからこれまで説明してきたような方法で、有用微生物(EM)を使って生ごみを発酵させて浄化します。
でも、本当を言うと、生ごみが腐敗してウジが湧いても、2年も置いたら結局、浄化された元気な土に変わるのです。途中の発酵ルートが変わり早くなるだけです。

菌ちゃんの存在を身近に感じることができた子どもたちは、生ごみに触れることも厭わなくなります(佐賀県武雄市の食育事業・生ごみから元気野菜づくり体験に参加した山内東小と同西小の児童たち)
菌ちゃんの存在を身近に感じることができた子どもたちは、生ごみに触れることも厭わなくなります(佐賀県武雄市の食育事業・生ごみから元気野菜づくり体験に参加した山内東小と同西小の児童たち)

昔の人はそのことを知っていましたから、人糞尿をいったん腐敗させて、2年かけて放置、腐熟させて、二度と腐ることのない完熟液肥をつくっていました。この時、特に働くのがEMの中にも入っている光合成細菌ちゃん。この液肥を畑にまくと、寄生虫も発生しないし、害虫もほとんど来ないおいしい野菜ができるのです。人間は海や山の多種類の生き物を食べるので、糞尿はミネラルバランスの優れた良質の堆肥になりますから、なおさらおいしかったと思います。
生ごみを回して、元気野菜を食べる取り組みが常識になったら、次はバイオトイレを園内に設置して、腐敗臭を出さない発酵分解で、自分たちのウンチとおしっこを堆肥や液肥にして回して、飛び切り元気な野菜をつくって食べる取り組みを始めたいものです。
どこかやりたい保育園・幼稚園があったら連絡をお待ちしています。

みんな回ってひとつ

地球上に生きていた”いのち”は、いつか死ぬと必ず大地に戻り、そこから新たな”いのち”につながっていきます。それを体験することによって、頭でなく体で理解した小学生は素直に行動に移してくれます。そんな例を報告します。
生ごみリサイクルを体験した小学4年生の教室で、掃除の時間に先生がトンボの死骸を見つけました。いのちの循環を教えた先生ですが、何気なく、「これもごみに捨てて」と言いました。でも、体で理解している子どもはすごいです。 「先生、これ土に戻したら、また元気な野菜になるんだよ」と言って、土に戻したのです。
国の食育推進の大きな柱としても「教育ファーム」の普及が図られていて、教育現場での農業体験の必要性が理解され始めています。そして多くの小学校でサツマイモを育てて食べる体験が行われています。サツマイモを収穫したら、芋づるが残ります。先生はこれは要らないからと、ごみ袋に入れて捨てようとしました。それを見つけた小学生は、「どうして捨てるの?畑の菌ちゃんはお腹を空かせて待っているんだよ」と声を上げました。言われた先生は、なるほどそうだったと思って、子どもたちと一緒に畑に混ぜました。先生も子どもたちの感受性の高さに脱帽です。農業体験に、いのちの循環体験という視点を取り入れて取り組むと、はるかに教育的効果が上がることを実感したひとコマでした。

地球上のすべてのいのちは、グルグルとつながっているのです
地球上のすべてのいのちは、グルグルとつながっているのです


地球上のすべてが循環してつながっていることが分かると、すべての生き物や人間は、一見競争しているように見えることもあるけれど、本質的に共生していることも分かります。日本人はその本質を深く理解していました。「一寸の虫にも五分の魂」「やおよろず(八百万)の神」という言葉は、世の中の生き物はみんな役割があってつながっていることを知っていたから出てきた言葉だと思います。この世に要らないものなんて、殺してしまった方がいい生き物なんて本来は無いのです。
バイキンマンが時々悪さをしないとアンパンマンは強くなれないし、腸内には善玉菌だけでなく悪玉菌も必要なことが分かっています。雑菌との遭遇が少ない清潔生活は、人の免疫システムを弱体化させます。雑草があるから朝露などの溢泌(いっぴつ)により土壌中に可溶化ミネラルを供給し、死んでたくさんの微生物のエサになってくれます。人間の浅知恵で軽はずみに処分してはいけない気がします。
でも、現実の世の中は反対方向にまっしぐらです。「テロは殺してしまえ!雑草は要らないから枯らしてしまえ!」抗菌靴下に抗菌まな板。テレビをつけたら、「じょきん、除菌」の連呼。何でも殺して自分だけ生き残れるのでしょうか?
これはとんでもない大きな勘違いだと思うのです。取り返しがつかなくなる前に、もう一度早く地球とのきずなを取り戻して欲しい。そのためにも、生ごみリサイクル元気野菜づくりを本気で楽しく普及しています。私も、あなたも、こうして地球が生かしてくれている以上、何か役割があって生きているのだと思います。
「みんなに伝えて、腐海が生まれた訳を!虫は世界を守ってるって」
風の谷のナウシカも、虫の大切な役割を気づきました。
例えば、インフルエンザってどうして存在するのだろう?口蹄疫は?ガンは?
この生ごみリサイクル元気野菜づくりの体験活動は、真の意味での循環型共生社会へ、1人ひとりが移行するための入り口になる気がします。そして、案外幼児の方がすんなりと入りやすいものかも知れません。 これまでの連載で一通り説明できました。ぜひ、近くの子どもや幼児たちと一緒に、生ごみを飛び切り元気な野菜に変身させて、子どもたちと一緒に、子どもの心になって感動体験されると、とっても楽しいですよ。

雑草は土を肥やし、野菜を活かす

ところで、いのちの循環による元気野菜づくりは、材料は生ごみでなくても、大量の生雑草をすき込んでも、ミネラル豊富な野菜が育ちます。その理由としては以下のことが考えられます。

  1. 雑草はもともとミネラル豊富
    雑草は、自分の力で元気に生きる、もともと生命力の強い生き物です。ですから、そのために必要なミネラルを根圏微生物と協力して、土壌中の元素を可溶化して吸収しているはずです。その雑草を土に入れるとカルシウムやカリウムのほか、様々なミネラルが土壌に供給されます。
    刈り取って、山積みしていた雑草も2か月後にはぺちゃんこに。土に入れると良質の肥料になります(長崎市が管理するあぐりの丘の農業体験畑に立つ農林部職員ら)
    刈り取って、山積みしていた雑草も2か月後にはぺちゃんこに。土に入れると良質の肥料になります(長崎市が管理するあぐりの丘の農業体験畑に立つ農林部職員ら)
  2. 微生物の力
    微生物は、みずから生き続けるために、外部から必要なものを選択的に吸収し、不要物のみを外部へ排出し、外部の情報を感知して適切に対処し、そして子孫をつくるという、生命の基本的な能力を持っています。つまり、生きるための絶妙な能力に必要な、地球上のミネラルや酵素、タンパク質、核酸などの多種多様の有機物を十分バランスよく備えているということです。
ニンジンの栽培で、雑草をすき込んだ方法と他の栽培のミネラル含有を比較したグラフ。雑草栽培の威力は一目瞭然
ニンジンの栽培で、雑草をすき込んだ方法と他の栽培のミネラル含有を比較したグラフ。雑草栽培の威力は一目瞭然

生雑草を大量投入することで、その微生物が爆発的に増えます。この微生物が根から植物に吸収されることで、植物は生きるために必要な微量ミネラルをバランスよく確保しやすくなるのではないかと考えられます。
理由はともかくグラフ(右上のグラフ)を見ていただくと分かるように、雑草栽培ニンジンは、普通栽培に比べカルシウムや亜鉛の含有量が2倍以上になっています。農薬や化学肥料を減らしただけの特別栽培ニンジンとは、比較になりません。
雑草の有効性に気づいたら、ごみとして燃やすなんてもったいない! 学校の掃除で出る雑草を学校の野菜づくりに有効利用したり、地域清掃や公園管理で発生した大量の雑草があれば、有機農業に積極的に利用できますね。

 

【吉田さんの講演・イベント予定はこちらから】
https://kinchan.ocnk.net/page/3