新・夢に生きる | 比嘉照夫

第219回 EMで実現する持続可能なバイオサイクル  畜産業の課題をEM技術で解決するモデル事例

新・夢に生きる 第219回

イタリアではこれまでもEMを活用した様々な成功事例がありますが、今回紹介するヴェゼンティーニ・セルペッローニ農場の成果は、EMの活用を更に高度化する次のステップに到達しています。

その基本となるのは、質の良いEM活性液をつくり、農場全体を発酵合成力の高い環境へと整えることです。その結果、サイレージ(牧草やトウモロコシを発酵させて保存する飼料)や牛の第一胃(ルーメン)内の有用微生物が強化されます。すると、牛の健康や肉質も改善され、獣医経費も低減します。

さらに、牛の排泄物の臭気やゲップが抑制され、メタンガスが減少します。従来は、牛のゲップのメタンガスを防ぐ方法は無いと言われていましたが、EMを活用すると50~70%くらい減少するものと考えており、理論上はその減少分が成長や品質の向上につながることになります。

EMを使うと糞尿を使ったバイオガス発電からの悪臭が減少し、発電効果が15~20%も高まるという例も報告されています。環境全体の臭気はいっそう抑えられ、家畜のそばで暮らすことの不快感も解消されます。

このシステムではすべてがEMを中心とするため、EMの使用量だけでなく、EM活性液を高い品質にキープすることが重要になります。


飼料から肥料まで:イタリアにおける持続可能な循環型肉牛生産モデル

出典:EM研究機構「飼料から肥料まで:イタリアにおける持続可能な肉牛生産モデル」

ヴェゼンティーニ・セルペッローニ農場の畜舎

イタリア北部のヴェネト州にあるヴェゼンティーニ・セルペッローニ農場では、年間約2,000頭の肉牛を飼育しています。農場が管理する畑は200ヘクタール。飼料作物と穀物を育て、その飼料で牛を育てています。

この農場では、飼料づくり、肉牛の飼育、再生可能エネルギーの発電、有機肥料の製造を、一つの経営の中でつないでいます。牛のふん尿からバイオガスをつくり、発電後に残る消化液は肥料に加工します。その肥料は農場でも使われ、国内にも販売されています。

2023年にEM技術を導入してから、牛の健康、飼料の品質、畜舎の衛生環境、ふん尿管理に変化が見られています。電力はバイオガスと太陽光発電でまかない、エネルギーの自給も行っています。

自動給餌システム

農場が目指したこと

導入のねらいは、できるだけ自然で持続可能な方法で牛の飼育環境を整え、ストレスを軽くしながら生産効率も高めることでした。EMは、飼料、畜舎、ふん尿処理、肥料づくりの4つの場面で使われています。

主な資材は、EM活性液、EMボカシ、EM NUTRI RUMENEM NUTRI SILです。

飼料管理での活用

飼料管理では、牛の第一胃(ルーメン)の働きを支えること、飼料を保存すること、新しく入った牛が環境に慣れるまでを支えることにEM技術を活用しています。

  • サイレージをつくるときにEM NUTRI SILを施用し、発酵を促して飼料の品質を保ちます。
  • EM処理したサイレージを、日々の完全混合飼料(TMR)の一部として使います。
  • EM NUTRI RUMENは、自動給餌システムを通じて完全混合飼料に加えます。
  • 新しく受け入れた牛には、環境に慣れる期間にEMを用いた重点的なケアを行います。

EM Nutri Rumenの自動散布

EM Nutri Silを接種したサイレージ

畜舎の衛生管理と悪臭対策

畜舎では、環境を整えるためにEM活性液を定期的に散布しています。牛が過ごすエリアと、ふん尿が付着した場所には重点的に施用します。

  • EM活性液を水で希釈します。
  • 希釈液を畜舎全体に定期的に散布します。
  • 牛の飼育エリアと、ふん尿が付着した場所に重点的に施用します。

ふん尿処理とバイオガス生産

EMは、畜舎からバイオガスプラントまでのふん尿処理にも活用されています。飼料に加えたEMと畜舎に散布したEMは、ふん尿にも行き渡ります。

  • 液状のふん尿であるスラリーは、すのこ床の下に集められます。
  • EMを含んだスラリーをバイオガスプラントへ送り、嫌気消化処理を行います。
  • バイオガスを取り出したあと、通常は廃棄される消化液を回収します。

EMペレット肥料の製造

バイオガス発電後に残る消化液は、有機肥料の原料として活用されます。農場内の資源を、次の生産に使える形へ戻す工程です。

  • 消化液を分離・処理します。
  • 処理した材料を乾燥させ、ペレット状に成形します。
  • 製造過程でEMボカシを加えます。
  • 完成したペレットを有機肥料として販売します。

EM処理されたスラリー

消化液から製造されたEMペレット肥料

導入後に報告された変化

EMの導入後は、牛の健康、飼料の管理、畜舎とふん尿の扱い、肥料の販売の各面で変化が報告されています。

飼料の摂取と牛の健康

とくに環境に慣れる期間には、飼料の摂取量が7%増加しました。その結果、牛が成長期へ移る時期が約1週間早まったとされています。第一胃(ルーメン)の安定性が高まり、ワクチン接種後の回復が早くなったほか、消化器系と呼吸器系の病気も減少しました。

管理費・医療費の削減

牛の免疫の向上と、治療や世話にかかる手間の減少により、管理費と獣医療費は約18%削減されました。

肉質の向上

筋肉の発達、枝肉の清潔さ、品質の均一性、保存期間に改善が報告されています。大規模な食肉流通に求められる要件を満たす水準になったとされています。

畜舎・ふん尿・飼料管理の改善

定期的なEMの活用により、畜舎では悪臭、ハエの発生、ガスの蓄積が減り、衛生環境が改善しました。EM処理したサイレージは保存性が高く、乾物損失は10~15%低減し、カビの発生もなかったと報告されています。ふん尿は流動性が保たれ、貯蔵やポンプで送る作業がしやすくなりました。

バイオガスと肥料の価値

EMを含んだふん尿は、バイオガスプラントの安定稼働と資源の再利用に役立ちました。EMボカシを加えたペレット肥料は、従来品より約5%高い価格で販売され、人気商品となっています。

循環を続ける農場へ

この農場では、飼料を育て、牛を飼い、ふん尿からエネルギーと肥料をつくり、その肥料をまた農地で使っています。畜産、再生可能エネルギー、栄養の循環、有機肥料づくりを一体にした、肉牛生産の一つのモデルです。

肉牛生産、バイオガス発電、ペレット肥料生産のバイオサイクル

臭いのない牛舎で飼育されている健康な牛

ペレット肥料製品

EM NUTRI RUMENのタンク

次の課題

エミタ社のフランチェスコ・ビスカロ氏

現地でEM技術を支えているエミタ社(Emita srl)のフランチェスコ・ビスカロ氏は、次の段階として、EMの活用手順をさらに最適化することと、測定データによる検証を進めることを挙げています。

今後は、自動化を広げること、環境負荷をさらに減らすこと、そしてEM技術を作物生産にも活用することが計画されています。飼料から肉牛へ、ふん尿からエネルギーと肥料へ、そして農地へ。この循環を、より確かなものにしていく取り組みです。

EM NUTRI RUMEN および EM NUTRI SIL は、イタリアでのみ販売されているEM製品です。


ひが・てるお/1941年沖縄県生まれ。EMの開発者。琉球大学名誉教授。国際EM技術センター長。アジア・太平洋自然農業ネットワーク会長、<公財>自然農法国際研究開発センター評議員、<公財>日本花の会評議員、NPO法人地球環境・共生ネットワーク理事長、農水省・国土交通省提唱「全国花のまちづくりコンクール」審査委員長<平成3年~平成28年>。著書に「新・地球を救う大変革」「地球を救う大変革①②③」「甦る未来」<サンマーク出版>、「EM医学革命」「新世紀EM環境革命」<綜合ユニコム>、「微生物の農業利用と環境保全」<農文協>、「愛と微生物のすべて」<ヒカルランド>、「シントロピーの法則」<地球環境共生ネットワーク>など。2019年8月に最新刊「日本の真髄」<文芸アカデミー>を上梓。2022年、春の勲章・褒章において、瑞宝中綬章を受章。

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